第8章 前兆
聞きたい
ディックに、聞きたい
このお茶会で、何を見て、何を聞いたのか。
でも、怖くて聞けない。
「〜〜で、ーーーでしたのよ!」
「まあ、✕✕✕は、○○○で?」
「@%$#*」
駄目だ、お茶会の会話も頭に入ってこない。
あんなに貴族令嬢するって、気合入れたのに。
ディックが淹れてくれたハーブティーに口をつけることさえ出来ず、すみれはお茶会どころではなくなってしまった。
(お茶会終わればすぐ会えるって…こうゆうことだったの?!?)
使用人をしているディックを盗み見る。
ディックはこちらの視線に気づき、ニコッと笑顔を作る。
「…ッ!」
(わざとだ…!私が困惑してるの、わかってる!)
いつもは子息の格好をしているが、今日はYシャツにシンプルなベスト、黒いスーツのパンツ姿だ。
普段の格好も似合っているが、今日の姿は
洗練されているというか、出来る男というか、
何ていうか、やっぱり、
(か、かっこいい……!)
けど、やっぱりそれどころではない。
ディックは、ティキと私の会話を聞いたのだろうか。
私の意中の相手が、“眼帯くん”であるという話を。
“眼帯くん”なんて、ディック以外、いない。
私の気持ちを知ったら、ディックはどうするのだろう?
今以上の関係になれる?
フラレて、もう会えなくなる?
会えたとしても私は、何事もなかったように振る舞えるのか…
きっと、無理だ。
再び、ディックを盗み見る。
とても手慣れた様子で給仕をしている。
(話は、聞かれてなかったのかな…?)
私の反応を、面白そうにしているディックの姿を思い出す。
あの様子だと、会話は聞かれてない。
のでは……ないかな?!
すみれは一人でもんもんと考えていると、
「そんなに緊張するなって」
すげぇ百面相してるさ?と、すみれにだけ聞こえるように耳元でディックが話しかける。
吐息がかかり、くすぐったい。
かあっと顔が熱くなるのがわった。
「…お茶会終わればすぐ会えるって、こうゆうことだったの?!」
すみれもディックにだけ聞こえる声量で声をかける。
「…ま、そうゆうことさ!」
言ってくれれば、良かったのに…!
「だから」