第8章 前兆
すみれはティキに手を引かれ、お茶会の集いに近づいていく。
「あら、ミック候とすみれさんが戻りましたわ」
「お戻りが遅かったようで…」
「待っておりました」
「主催である私が、皆様をお待たせしてしまって申し訳ない。」
ティキは来賓客の前で、侯爵の笑顔を作る。
それに続き、すみれも貴族令嬢として振る舞う。
「少し気分が優れなくなりまして…席を外しておりました。
皆様に不愉快な思いをさせてしまい、お詫び致します」
「まあ、そうでしたの。すみれさんはもう大丈夫ですの?」
「はい。ご心配をおかけして申し訳ございません」
(流石に、ただ拗ねていたなど言えない…!)
「今、あそこの宝石商の話をしていたのですよ」
優しい何処ぞの子息がすみれに話題を振ってくれる。
「そうでしたの。今、とても話題になって…」
すみれは促されるまま、その席へ着席する。
大丈夫大丈夫。
ちゃんと会話に馴染めそうだ。
すみれは心の中で、ホッと胸を撫で下ろす。
「すみれ様、ご気分が優れないようでしたらこちらのハーブティーは如何でしょう?」
コソッと使用人の方が声をかけてくれた。
「はい、お願いしま…」
言葉が、最後まで出なかった。
振り返ると、そこにはーーーーーー
ディックが、いる。
「!!?、???!」
「はい、静かにするさ。令嬢するんだろ?」
使用人に扮した、ディックがいた。
「なん…ッッ?!、ここに……ッ?!?!」
すみれは驚愕するものの、なんとか精一杯声を押し殺す。
言葉が上手く出てこない。
そして、叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
「ちょっと仕事さ」
「……ッ!?いつから居たの?!」
周囲には聞こえない声量で、支給しているディックにコソッと話しかける。
「始めっからいたけど。」
「ぇ!?」
「そんなに俺と話してると、怪しまれるぜ?」
俺のことは気にせず、正面見てるさ〜なんて言われ、すみれは言われた通り席へ座り直す。
(始めっから…?!と、言うことは、)
お茶会の初っ端から拗ねてたことも
ティキと途中抜け出したことも
見てたってこと……?!?!
ティキと二人の会話も、
聞いてたってこと……?!?!