第8章 前兆
「〜〜〜〜ちょッ!?」
「そんじゃ、行こうぜ」
戸惑うすみれを気にもせず、ティキはすみれの手を引き歩き出す。
「え、どこに?!」
「お茶会の続き。今度は楽しむだろ?」
リベンジするだろ、と挑戦的な笑みをすみれに向ける。
(えっ…?!)
何で、わかったんだろう。
ティキの来賓客の子息令嬢に失礼な態度をとってしまったので、リベンジというか、お詫びしたいと思っていた。
「な、なんで、そう思ったの?」
「さあ、なんでだろうな?
…すみれのことは、何でもお見通し♪」
ティキはゆっくり振り返り、すみれを見つめる。
すみれを見つめる目が優しくて、だけど軽やかな雰囲気はいつものティキそのものだ。
「ありがと、ティキ。ねぇ、わがままついでに……、」
「ん?」
「リベンジ、したいの。
……エスコート、してくれる?」
ティキはすみれからのお願いに、驚いた顔をした。
しかし、それは一瞬で。
誰もが見惚れるような、色気溢れる笑みを浮かべる。
「…もちろん、喜んで。レディ」
すみれの手を引いて、再びお茶会へ歩き出した。
*
しっかり、お茶会で令嬢をしよう。
私の評判が悪くなれば、叔父様や叔母様の評判も落ち、迷惑が掛かる。
そして主催者であるティキの顔に、泥を塗るわけにはいかない。
今まで、きちんと行っていたことなのに。
当たり前に、令嬢を演じてきたのに。
(恋は盲目って言うけど…あながち間違ってないなあ)
自分の行動を振り返り、反省する。
(ディックのプレゼントも、ケーキも準備してきたし。
帰宅してからでも、ちゃんと祝える。)
そして、ディックに言われたことを再び思い出す。
『ーーーお茶会終れば、すぐ会えるさ。
先約だし、ちゃんと令嬢してこいよ?』
大丈夫、ちゃんとやれる。
「…よしっ!」
「……握り拳なんか作って気合い入れちゃってるけど、お茶会だからな?笑」
「私はこれぐらい気合入れないと、貴族令嬢できないのっ!」
「はいはい」
ティキは呆れたように笑いながら、お茶会の来賓客が集まっている所まですみれをエスコートする。