第8章 前兆
眼帯彼氏
ティキの言われたことに、言葉を失う。
ディックと私が…えぇ!!
「か……彼氏ッ?!」
「あれ、違うんだ?」
てっきりそうゆう人かと、とティキは驚いている。
そうだったら、どんなに嬉しいことか。
と、いうか、
「…そうゆう風に、見えた?」
「見えた見えた」
「そっかあ、」
ティキの言葉が、素直に嬉しい。
傍から見たら、そうゆう風に見えなくもないんだ。
思わずふふっと、顔がほころんでしまう。
「…そんな顔もするんだな」
「え?!そんな変な顔してた?!」
ディックのことを思い出し、思わず顔がにやけてしまった。
コホンッと慌てて咳払いをする。
「してたしてた笑。
でも、悩みの種でもありそうだな?眼帯くんが。」
「…まあ、ちょっとね。」
「おにーさんに話してみ?誰にも言わねえから」
ほれほれ、とティキに催促される。
別に他の人に話されたとして、そんな困ることもない。
話したところで解決もしないだろうけど、多少は気持ちが晴れるだろうか。
「まあ、なんていうか…その、眼帯くんの、ね。」
「うん」
「誕生日、日にちが近づいても、なかなか教えてくれなかったの…。毎日一緒にいるのに。」
ティキの前で“ディック”と言う必要はないと思い、ディックのことを“眼帯くん”と呼ぶ。
眼帯くんと呼ぶことになんだか変な気分だと思いながら、ぽつりぽつりとすみれは話し始める。
「私に言うのが面倒だったのか、誕生日に興味なかったのか…
わからないけど、私にとっては大切なことだから、教えて欲しかったなって。」
ティキは黙ってすみれの話に耳をかたむける。
「それだけのこと。…そんな理由で、拗ねちゃったの、私。」
私ってば馬鹿でしょう?と、すみれは自嘲する。
ティキに呆れられても仕方ない。
「羨ましいよ」
「え?」
「羨ましいっつったの。」
「羨ましい?何が?」
すみれは首を傾げる。
「眼帯くんが羨ましいよ。すみれにそんな風に想ってもらえるだから。」
何故かティキから哀愁と色香のような雰囲気を感じ、すみれは思わずドキッとしてしまった。
「…そう思ってもらえたら、いいのになあ。」
すみれは慌ててティキから視線を外し、窓から空を眺めた。