第8章 前兆
ティキが隣にいた、が。
隣というより、目の前だ。
視界いっぱいにティキの顔…!
「ひっ…!?」
「オイ、人の顔見てそれはないでしょ?」
本気で傷つくわ、と呆れたため息を吐く。
「ティ、ティキ!」
「声のトーン落とせよ?ただでさえ見られてる」
shhー♪
ティキは人差し指を口元におき、“静かに”と笑顔でサインを出した。
(突然のイケメンは心臓に悪い…!)
すみれはティキと充分な距離を置き、ドキドキとうるさく鳴る心臓を宥めるために胸に手を置く。
その姿を見たティキが「だから、それ傷つくって…」とぼやいている。
「んで、さっきから何いじけてんの?」
「べ、別にいじけてなんか…、」
そうか。
皆の会話に入っていないから、いじけてるように見えたのか。
というか、私…
「…」
「ん?どうした?」
「…ううん。やっぱりいじけてたんだなあって思っただけ。」
「どー見ても、そんな感じだったぜ?」
「も〜〜〜傍から見てもそう見えるなんて…、」
恥ずかしい、とすみれは顔を手で覆う。
「…まっ、そう見えたのは俺だけだと思うけどね。」
「え?」
すると、ティキはすみれの手首を掴み、すみれの顔を覆う手をパッと取り覗く。
再びティキとの距離が急劇に縮まる。
「わ!ちょ…っ、」
「シッ!ちょうど死角だから、周囲には見えないよ」
「見えないとか、じゃなくて…っ!」
ティキに手首を捕まれ、壁に押し付けられている。
これは、いわゆる壁ドン状態ではないか。
互いの顔も近く、息が触れそうだ。
「俺のお茶会に来てんのに、ずっと上の空で…ちょっとそれはないんじゃないの?」
先程のふざけた雰囲気とは違い、怒りを含んだような言い方に聞こえた。
「ぅ゛……それは、ごめんなさい。」
仰る通りかもしれない。
「分かればよろしい。」
ティキはすみれの手を離し、離れていく。
すみれは、はー…と息をつく。
「何か、気になることでもあんの?」
すみれは素直に頷くことにした。
「…うん、ちょっとね。拗ねたくなっちゃったことがあったの。」
大したことじゃないんだけど、とすみれは付け加える。
「また、あの眼帯彼氏くんのことで悩んでる感じ?」