第7章 嘘
すみれはそんなディックを知ってか知らずか、言葉を一つ一つ紡いでいく。
ディックはすみれの言葉に、耳を傾ける。
「…愛する人や守りたい人がいて、その人達を守るために戦いを選ぶことも、あると思う。」
すみれの優しい声音は、ディックの荒ぶる心を落ち着かせていく。
「…その人達を傷つけられて、報復で戦いを選ぶことも、あると思う。
だから、今も戦争がずっと続いてるんだと思う。」
こんな話題であっても、すみれの声や、彼女の纏う穏やかな雰囲気を感じられるだけで、ディックの気持ちも穏やかになっていく。
だんだんと、いつものディックの調子に戻っていく。
「だけど、戦争は悲しみや憎しみを生むこと。大事なモノを失うことを伝えていく事…平和や幸せを望み続ける事が、大切になると思うんだ。」
ああ、どうして彼女は人間の優しさとか、温かさとか、慈しみとか。
愛する心とか
そういうモノで、溢れているのだろう。
俺が、見落としているものを掬い上げてくれるのだろう。
ブックマンが存在しているのは、歴史を記録するためだ。
何の為に?
きっと、人間の過ちとか成功とか。
そうゆうものを記録することで、未来の人間の道標になるのならーーーーー
「…じゃあ、俺は頑張らねーといけねえな」
ディックはすみれに聞こえない声で、ボソッと呟く。
「?ディック、何か言った?」
「いや、なーんも!
…すみれのおかげで、スッキリしたさ。」
そう言うと、ディックは腕を伸ばし大きく伸びをした。
「戦争する人間って愚かだなって、馬鹿だなって、ずっと思ってた。…俺は違うって、思ってた。」
(すみれのことを考えたとき、愚かな考えに至った。)
「けど、すみれの話を聞いて、戦争の根源になるモノは誰にでもあるんだなって…生きてる限り皆、無関係じゃないんさね。
俺にできること、しねーとなって。気合入った。
…ありがとな、すみれ!」
(俺も、愚かで馬鹿な人間と一緒さ…てもそれは、)
「私の方こそ、いつもありがとう。」
すみれはそう言うと、優しい笑みを浮かべた。
(すみれのこと、だからなんだ。)
すみれのことが、大切なんだ。
この笑顔が、たまらなく好きなんだ。