第7章 嘘
「ずっと、すみれと一緒にいられたら、いいのになあ。」
ーーーーーすみれのことが、好きだ。
今まで、恋はたくさんした。
綺麗なお姉様方も、たくさん見てきた。
“ストライク”は数え切れないほど、あった。
だから、目は肥えている方だ。
すみれに“ストライク”はなかった
なかった、はず、なのに
好きに、なってしまった。
すみれの傍は、温かい。
俺が辿っている暗くて寂しい道を、灯火のように照らしてくれる。
とても安心する。
それだけでは、なくて。
すみれの髪や指、肌、唇。
全てに、触れていたい。
もっと近くに寄りたい。
すみれの瞳に、このままずっと映されていたい。
でも、
(俺は、ブックマン後継者ーーー)
この恋には、終わりがある。
短い恋になるのは、分かりきっている。
「私も、そう思うよ。…ずっと一緒にいられたら、いいのにね」
すみれの、運命の人は
俺じゃない。
俺は記録を終えれば、“ディック”の名を捨て、この地を去るのだから。
だから、俺から“好きだ”なんて
無責任なことは、言えないんさ。
だから、
すみれに、言われたい。
「…ちょっと、言ってみただけさ。…泣くなよ」
ディックはそう言うと、すみれの頬に伝う涙を拭う。
この涙が、何を意味しているのかぐらい、流石にわかる。
「泣いて、ないもんッ。…嬉しかった、だけだもん」
どうか、48番目の名前である“ディック”として
すみれから、“好き”と言われる記憶が、欲しい。
「すみれは可愛いなあ。…どうしようもなく、可愛い、さ。」
窓越しにすみれの頭を抱き寄せる。
ディックは心の中で、願うばかり。
(俺に、言えよ……)
「…ディック」
「ん?」
ーーーーーー好きって、言ってくれ。