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49番目のあなた【D.Gray-man】

第7章  嘘






ーーーーーーー“好きだよ”







この一言は、やっぱり伝えることが出来ない。



ディックを、困らせたくない。






「…何でも、ない」

「変なすみれさ」

ディックはぽんぽんと、すみれの背中を擦る。





私は、幸せ者だ。

別れがあったとしても、ディックと出会えたんだから。


こんな素敵な人、会ったことがない。
たくさんの、知識と知恵をもらった。
忘れられない、思い出をもらった。
恋する楽しさを、もらった。


これで、十分ではないか。
これ以上、望んじゃいけない。







欲張りに、なっちゃいけない。




「…もう、大丈夫だよ。ありがとう、ディック。」

「そう?またいつでもいいさ」

ディックはそっ…とすみれから名残惜しそうに離れる。


すみれは話題を変えるために、机に置いてある日本の本に手を伸ばす。






「ねえ、ディック。この本にね、こんなことが書いてあったの。」


「どれどれ?…TANABATA?」

「そう、“七夕”っていうの。
…日付はとっくに過ぎちゃったんだけど、日本では7月7日にお願い事を紙に書いて吊るす風習があるんだって。」

「へぇー!願い事ねえ」

「せっかく知ったからさ、お願い事書いてみない?」

ディックの反応はイマイチだが、ノートを少し破り、ペンと一緒に半ばむりやり渡す。



「願い事ねぇ…すみれは何書くん?」

何書くさねーと、紙をぺらぺらさせながらすみれに問う。




「私のお願い事は、これかな?





“みんなが幸せになりますように”!」


「自分の願いじゃねえの?自分の幸せとか、叶えたいこととか。」

「……私は、幸せだよ?
充分過ぎるくらい、幸せ。…自分の事を願うほどの、ものが無いくらい。幸せ、なんだよ。」


すみれはそう言うと、綺麗に笑ってみせる。
ノートの切れ端に書いた願い事を、窓枠の上にぺたりとテープて貼付け、風になびいて揺らせてみる。


「なんさ、それ…」
ディックは不満そうな声で、ボソッと呟いた。

「ディックは?なんて書くの?」


「俺はーーーーー」
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