第7章 嘘
「俺さ、最近すごく思うんさ。」
「何を?」
「…すみれには、敵わねえって。」
窓枠に両腕を乗せ、その腕には頭を乗せるディックがいる。
赤い髪が風になびいて揺れている。
「何言ってんの!それは私のセリフだって!いつもディックに色んなこと教わってるよ」
「そうじゃなくて。なんつーか、中身っていうか…人間性?」
「に、人間性?」
ディックの予想外の言葉に、すみれは頭に?を浮かべる。
「いつも大切なことを、すみれに気づかされる。改めさせられる。そんなこと出来る奴、いねぇさ。
…ずっと、すみれと一緒にいられたら、いいのになあ。」
ディックの言葉に、耳を疑う。
こんなに嬉しいこと、かつて言われたことがあっただろうか。
しかし、瞬時に思ったのは、
(ずっと、一緒にいられないってコト、だよね…)
ディックの優しい翡翠色の目に、すみれが映り込む。
このまま、吸い込まれそうだ。
このまま、吸い込まれてしまえたら、ずっと一緒にいられるだろうか。
「私も、そう思うよ。…ずっと一緒にいられたら、いいのにね」
「…ちょっと、言ってみただけさ。…泣くなよ」
ディックはそう言うと、すみれの頬に伝う涙を拭う。
「泣いて、ないもんッ。…嬉しかった、だけだもん」
「すみれは可愛いなあ。…どうしようもなく、可愛い、さ。」
ディックはそう言うと、窓越しにすみれの頭を抱き寄せる。
すみれはディックの匂いと体温につつまれる。
(私は、やっぱり…
ーーーーーーーーディックが、好きだ。)
ずっと自分を誤魔化していた。
だって、報われることが無い想いだから。
いつ恋におちたのかも、わからない。
気づいたら、好きだった。
「…ディック」
「ん?」
ーーーーーー好き、だよ