第7章 嘘
すみれは言葉を一つ一つ、紡いでいく。
「戦争があっていいなんて、少しも思ってない。けど…」
「…けど?」
「…愛する人や守りたい人がいて、その人達を守るために戦いを選ぶことも、あると思う。
その人達を傷つけられて、報復で戦いを選ぶことも、あると思う。
だから、今も戦争がずっと続いてるんだと思う。」
「…戦争が無くなることは、ねえのかな。」
「無くすには、悲しみも憎しみも全て呑み込んで、戦争を辞めなきゃいけないんだよね。…歴史的因縁も、全て排除して。」
「すっごく難しいことさ、ね。」
「そうだね。」
「だけど、戦争は悲しみや憎しみを生むこと。大事なモノを失うことを伝えていく事…平和や幸せを望み続ける事が、大切になると思うんだ。」
「…じゃあ、俺は頑張らねーといけねえな」
ディックはすみれに聞こえない声で、ボソッと呟く。
「?ディック、何か言った?」
「いや、なーんも!
…すみれのおかげで、スッキリしたさ。」
そう言うと、ディックは腕を伸ばし大きく伸びをした。
「ディックの問の答えになった気がしないけど…少しでも気が晴れたなら良かった。
…ディック、悲しそうな顔してたから。」
「そんなんじゃ、ねー…けど。
戦争する人間って愚かだなって、馬鹿だなって、ずっと思ってた。…俺は違うって、思ってた。」
今度はすみれがディックの言葉に、静かに耳を傾ける。
「けど、すみれの話を聞いて、戦争の根源になるモノは誰にでもあるんだなって…生きてる限り皆、無関係じゃないんさね。
俺にできること、しねーとなって。気合入った。
…ありがとな、すみれ!」
にっ、といつもの元気なディックの笑顔を、すみれに向ける。
そこには先程のような苦悩な様子はなく、やる気に満ち溢れたようだった。
「私は何もしてないよ。
こんなことを考えるようになったのも、やっぱりディックのおかげなんだ。
…私の方こそ、いつもありがとう。」
二人で顔を寄せ合い、微笑み合う。
こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいい。