第7章 嘘
「…政治的立場で両国で話し合ってるのに、どうして戦争を起こすんだろう。戦争は無くならないんだろう。」
ディックは遠い空より、遥か彼方を見つめるように空を仰ぐ。
彼の翡翠色の目は太陽光を集め、まるで宝石のようには美しく輝いている。
輝いている、のに。
どうして、深い悲しみの色を感じるのだろう。
(そっか…)
きっと、ディックは 人が好きなんだ。
すごくすごく、好きなんだ。
好きだけど、意味のない戦争を繰り返す人間に、悲しさがあるんだ。
「…愛する人が、いるからじゃないかな?」
「……愛する、人?」
予想外の返信だったのだろう、ディックはきょとん、としてしまった。
「戦争が起こることによって、政治や経済がどう変わるかとか、私に難しいことはわからないけど…
もし、ね。
愛する人が、誰かに怪我させられたりしたら、その人を恨むと思うし、やり返したくなると思うの。」
「…無謀で、己の惨敗がわかってた、としても?」
「…これも、もしも、の話だけど。
私の両親はね、事故死だけど。
もし、誰かの手によって命を落としてたら
刺し違えても、私は相手を殺してやりたい。
…そんな風に、きっと思うよ。」
もしも、だけどね。とすみれは苦笑いをする。
ディックは一瞬目を見開いたものの、黙ってすみれの話を聞いている。
「あとは…人ってさ。他人によく見られたいとか、より好い暮らしをしたいとか、見栄や地位を求めるでしょ?
それって欲求というか、欲望というか…ある意味、自然なことだと思うのね。
でも、そこには必ず搾取する人、される人がいて。
人間って、嬉しくも悲しくも、欲求や欲望で生きてる。
だから、人間の欲が消えない限り、戦争が無くなるのって、難しいのかな。」
「…戦争が起こるのは、仕方ないってことさ?」
「そうじゃない。けど…
平和な国で、豊かな生活が保証されてて。
大事なモノを奪われたことが無い…搾取してる側の私が、“戦争は良くないです、辞めましょう”って、言っていいのかなって。
説得力なんて、あるのかな。」