第7章 嘘
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「あ!あったよ!」
やっとティキからの手紙を見つけ出し、今はすみれの手に握られている。
「お、見つかったさ!詳細は?」
「ええっと、日時は1週間後みたい。場所はここだって。知ってる?」
すみれはディックに手紙を見せる。
「ああ。ここからそんな遠くないさね。てか、ここは…」
ディックはそう言うと、机に置いてあった新聞に手を伸ばし、ペラペラと新聞をめくっていく。
「どうしたの?」
「そこは国境付近さ。戦争してるあの国と隣国だから、最近は近くでも戦争が起こってる。戦争ではなくても暴動とかテロとかもあって、治安が悪い。」
ディックはとあるページの記事を指差し、すみれも同様に覗き込む。そこには先日、戦火が及んだ事が書かれていた。
「アイツの屋敷からは遠いし、お茶会に行くだけだから大丈夫だろうけど、周辺で寄り道なんてするなよ?」
「わかった。でも大丈夫だよ。元々すぐ帰るつもりだから。」
「了解。」
ぽんぽん、とディックはすみれの頭を撫でる。
撫でている手が心地良く、すみれは思わず目を瞑る。
(私の方が歳上なのになあ…)
「そういえば、何で新聞なんてあるさ?すみれは読まねーだろ?」
ディックはすみれの頭を撫でる手は休めず、机の上に置かれた新聞に目を落とす。
「…今までは、ね。最近はディックを見習って読むようになったんだよ。」
「すみれは真面目さねえ」
「いやいや、むしろ今まで読まなかった事が恥ずかしい!
読むようになって、世界の政治や経済の動きがわかるようになったし。
…あと、私が思ってた以上に、世界は戦争をしてることを知ったよ。」
「そんな真面目に読んでる令嬢はすみれぐらいだぜ、きっと。すみれのためになったなら、良かったさ」
「本当に、ディックのおかげだよ。…ありがとね、いつも。」
「…なあ。」
「うん?」
「どうして、戦争って無くならないんだろうなあ。」
ディックは、まるでひとり言のように問いかけた。
「外国語だとしても、言葉は通じるはずなのに。何故、人間は戦争をするんだろう。…人の命と、時間と、金と、何もかもを無駄にしてまで。」