第7章 嘘
「…この中に将来の結婚相手とか、いるんじゃねえの?」
「えっ?」
「そうゆうつもりで、手紙を送ってきた奴もいるんじゃねえのって、言ってんの。」
少し口調が荒くなってしまったかもしれない。
俺には関係のないことなのに。
モヤモヤとイライラが止まらない。
でも、またすみれの一言で収まるはずーーーー
「…いるかも、しれない。」
すみれの口から出てきたのは、俺が予想した言葉とは違うものだった。
「結婚しなさいとも、言われてる。叔母様達にお世話になってるし。正論だから、反論もできない。」
「…結婚が全てじゃないって、この間言ってたじゃんか。」
「そう思うよ。…けど、私には力がない。だから、今は勉強をしたい。知識や知恵をつけたいの。
私自身の力で、生きれるように。」
すみれの切実な願いのように聞こえた。
叔父や叔母に迷惑をかけないよう、独学で努力している。
そんな願いも、受け入れてもらえないのか。
(あの叔父や叔母では無理、か…)
家柄や名誉、古き仕来りなどに固執しているのだから。
「それにね、私。今の生活が本当に楽しいの。色んなことを知って、理解できるようになって…
ディックには、本当に感謝してるんだよ。
…ディックがいる、この生活がずっと続くわけないことも、わかってるの。だから、今を大切にしたい。」
なんてね、へへと言い、すみれはわざとらしく舌を出す。
さっきのモヤモヤした気持ちは消えたが、違う感情が溢れ出す。
俺との時間を大切にしてくれている事が、こんなにも嬉しい。
また同時に、切ない気持でいっぱいになった。
近い将来、俺との別れが存在することをすみれは察している。
だから、今を大切にしたいなんて言うのだ。
俺がすみれに応えられることなんて、無い。
だけど、
「アイツとのお茶会なんて、さっさと帰ってこいよ?
俺も、待ってるから」
すみれは一瞬きょとん、とするも
「…うん!」
満面な笑みで答えてくれた。