第7章 嘘
すみれは部屋を出て行く際、一度こちらをふり返って手を振ってきた。
それに応えるよう、照れを隠すため気怠そうに振り返すも、すみれは嬉しそうに笑って出て行った。
もう、何なんさ…
可愛い、と思ってしまう自分がいる。
ヤキモチを露骨に妬いてしまった自分に吃驚した。
(っていうか…)
指摘されるまで気づかなかった自分に、一番吃驚している。
『私の1番のイケメンはディックだからね?』
『ディックとこうしてる時間が一番好き。』
すみれの言葉を思い出し、空を仰ぐ。
そんな言葉一つ二つで機嫌良くなる俺って…情けないけど、
「…現金な奴、さね」
思わずぽつり、とひとり言を呟く。
それにしても、こんなに気持ちを乱されるのは性に合わない。
(すみれのやつ、途中で笑うの堪えてやがった…)
それを思い出すと、少しムッとしてしまう。
すみれの些細なことは、すぐわかるようになった。
まるで、子供扱いされたような気になる。
きっとすみれはそんなつもりじゃなかったとしても。
(あーちくしょ…)
こんなんじゃ駄目だ。
気持ちを落ち着けるために、すみれが持ってきた文献や新聞に目を通すことにした。
* * *
ガチャッ
しばらくすると、ドアの開いた音がした。
おそらくすみれが戻ってきたのだろう、読んでいた新聞から視線を外し、覗き込むようにドアの方を見る。
「すみれ?遅かっ…」
「ごめん、遅くなっちゃって!」
そこには両腕に、大量に手紙を抱えたすみれがいた。
「どうしたんさ、この手紙の数!」
「他の手紙と混ざっちゃって…」
ディックを待たせたままは悪いなって思って持ってきたの、と苦笑いですみれは頬をかいている。
「俺も宛名見ていいなら、探すさ」
「!ありがとう!大丈夫だよ!」
二人で宛名の確認をしていく。
宛名を見ると大半が
「…男、さね。」
また黒いモヤモヤした気持ちが広がっていく。
「ん?何か言った?」
「いや、別に。こんなに手紙のやり取りしてて、大変だなって思っただけ。」
「殆どが社交辞令だからね。書いてくれた人も大変だよねえ」
他人事のようにすみれは言う。