第7章 嘘
「あれから、変わりねえ?」
あれから、とは。おそらく舞踏会のとだろう。
変わったことなど、何一つない。
舞踏会やお茶会が終わった翌日は、一緒に踊ってもらった方やお話した方、男女問わずお礼の手紙を社交辞令で送っている(叔母様の言いつけ)。
そういった手紙のやり取りをしているくらいで…その相手が私(というか伯父)の家柄や事業に興味関心があり繋がっていたいという人達が大半で。稀に私自身に興味があって手紙を頂くこともある、が…
(いつも通りよね。)
「うん、ないよ?」
紅茶の準備をしながら返事をする。
(ま、一通厄介なのがあるけど…)
ディックに紅茶を勧めると「ありがと」と、短い返事が返ってきた。
すみれも紅茶を優雅に口に運ぶ。
「あのイケメン侯爵からも?」
「ブフッ」
すみれは盛大に吹き出してしまった。
「ちょ?!大丈夫か?」
ディックは慌ててハンカチを差し出す。
すみれは素直に受け取り、使わせてもらうことにした。
イケメン侯爵って、ティキのことだよね?!
えっ 何で手紙のこと知ってるの?
「なん…!!!知って…?!」
「いや、何も知らねえけど。アイツ、すみれのこと気に入ってたし。…てか、何かあったんじゃねーか」
「ないないない…ごほ!」
「取り敢えず、落ち着くさ?話はそれからな」
そう言うと、ディックはすみれの背中をとんとんと擦り、落ち着くようにした。
うう…こんなことで取り乱して、恥ずかしい…!
「んで?アイツに何された?」
何処ぞの刑事ドラマのような、聞き取り調査が始まった。
ディックの声音は優しいが、目が笑ってないです。
怖い、怖いです。
「何もされてないって…ただ、」
「ただ?」
「ティキ主催のお茶会に誘われてるの…手紙で、ね。」
そうなのだ。
舞踏会後の手紙のやり取りは、いつも通りである。
ただ一通、厄介なのがティキからお茶会のお誘いを受けているからである。
「断わんねえの?」
「叔母様に運悪く手紙を知られちゃって、“出席なさい”攻撃。」
叔母様のあの様子だと、私が断る前に“出席”と返事を出してしまうだろう。
欠席という選択肢は存在しない。