第7章 嘘
舞踏会から3日経つ。
そう。舞踏会からの明後日が、今日だ。
ディックに会える。
バルコニーでの雑談は、叔母様に呼ばれるまでずっと二人で手を繋いでいた。
ディックに握られていた自分の手を見つめる。
『…俺も、すみれに幸せになってほしいさ』
まだ14歳なのに、大きくて骨張った手をしていたなあ。
少年ではなく、男の手。だった。
かあーっと頬が熱くなる。
舞踏会での出来事を思い出す。
(いやいや!かあーって!!平常心、平常心…)
これからディックが来るのだから!変な事考えない!と自分を叱咤し、久しぶりに使われるだろうディック専用のティーセットを定位置へ並べる。
それと、机には今日読みたいと思っている日本の文献と、新聞と…
(今まで、新聞は全然読まなかったのになあ。)
そう、今まで新聞なんて視界に入れすらしなかったが、最近は忙しくても毎日必ず目を通すようにしている。
(ディックの影響なんだよねえ)
『新聞でおおまかな世界の動き、出来事がわかる。情報は常に最新じゃないと意味がない。…ま、100%正しいとは言えねえ時もあるけど、“出来事”には間違いないさね。』
最後のセリフはいまいちピンとこなかったが、新聞が正しくない事を書くことなんて、あるのかな?
新聞も読んでみるとなかなか面白い。
(こんなすぐ、ディックの影響受けちゃって…これじゃあまるで、ディックのことを好ーーーーー)
「…よっ!来たさ♪」
「うわあああっ?!」
突然、窓枠から顔を出したのは、待ち焦がれたディックだった。
…ほんとに突然前触れなく、にゅっと出てきた‼
思わず持っていた新聞を強く握り締めてしまい、くしゃくしゃっと音が立った。
び、び、びっくりした……?!
「そんなに驚かんでも」
なんかデジャヴだな、とディックは笑っている。
「ディック!」
脅かさないでよ!とすみれは怒った素振りをするも、笑っている。
ああ、ディックだ。
ずっと会いたかったディックだ。
「時間なんて言ってないのに、こんな準備してくれたんさね…待った?」
「ううん、待ってないよ。ティーセットやお茶は、もう定番じゃない!私が嗜みたいの」
本当はかなり前から待っていた。
私が会いたかったから。