第6章 願わくば
ディックを否定しないよう、言葉を一つ一つ選び、言葉を発する。
「そうかあ…。愛し合ってる二人がいて、その愛する人の子どもが生まれるなんて、すごく素敵なことじゃない?」
「そうだったら素敵さ。でも、皆がみんなそうじゃないだろ?この貴族界で生まれて、家を継げとか、繁栄させろとか」
気の毒さね、と相変わらず視線は母子に送られている。
でもその視線は彼の優しさが滲み出てるように感じた。
「…確かに、貴族界って階級とか家柄って煩いし、それは大変かもなあ。」
「いやいや、他人事みたいに言ってっけど、すみれは貴族令嬢だろ」
「あ、元はね、違うんだよ!本当の親は貿易商社からの成り上がりだから。」
「え?!」
「両親共にやり手だったらしいよ?だから、私の人生の大半は、普通の暮らしだったよ」
ディックは驚いた顔をしている、それは驚くか。
「……なるほど、だから令嬢っぽくない言動があるんさね」
と、思ったら、腕を組みウンウンとすぐ納得された。
ちょっとどうゆう意味よ?
「……まあ、私の話は置いといて!」
「え、めちゃ気になるんだけど!」
ディックのいつもの調子に流されそうになるけど、ダメダメ!
私はちゃんと、話がしたいんだからっ
「貴族でも、そうじゃなくても、皆生きてれば大なり小なり大変なことや辛いことってあると思うのね。」
「そりゃそうさね」
すっかりいつものディックに戻っている。
「お母さんのね、受け入りなんだけど。
“自分で幸せになりなさい、他の誰かを幸せにするくらいに”って、ずっと言われきたの。女の子だから良い結婚が幸せって言われるけど、そうじゃないって。
だから、あの赤ちゃんも、赤ちゃん自身が幸せになるために。また、幸せを願われて生まれてきたんだよ。」
もちろん、色んなことはあると思うけどね。と付け足す。
「皆そうだよ、きっと。あんな小さい赤ちゃんのときって、誰でもあるでしょ?世話してもらえないと死んじゃうような、赤ちゃんだったとき。今生きてるのは、誰かに大切に育てられたからだよ。
私も、ディックも。」