第6章 願わくば
ディックの顔をチラッと見てみると、ぽかんとした顔をしている。
「…私、そんなに変なこと言ったかな…?」
「いや、違うさ!なんつーか、その……ほんと、その通りだなって、思ってさ。」
そうさね、なんて一人で噛み締めて呟いている。
「…初めてディックと会った頃、ディックって愛想良いけど掴みどころないし。ニコニコしてるけど、なんか冷めてるなあって思ってた。」
「え゛っ?!俺ってそんな風に見える?!」
「前はね。今は冷めてるようで、沸々とした本当の気持ちを秘めてるような……そんな風に見えるようになった、かな。
…赤ちゃんの話になった時、特にそんな風に感じたかな?」
ディックは目を見開き驚いている。
……私、また変なことか失礼なこと言ったかな。
内心、冷や冷やしながらディックをじっとみつめる。
すると、ディックは力が抜けたかのようにずるずるとその場に座り込んだ。
え?!
「ディック?!どうしたの?!」
「……すみれは、とんでもねぇさ」
「え?」
「…俺にすら隠してる俺の本心を、見抜いちまうんだな」
俺もまだまださね、と深いため息を1つ吐いている。
「見抜くつもりで見てるわけじゃないよ。何となく…そう、何となく、そう感じるようになっただけ。それだけディックと一緒にいるってことだよね」
「そうさね〜…何だかんだ、結構一緒にいるよなあ」
ディックはパンパンとホコリを払い立ち上がる。
「私、ね。ディックと知り合ってから、以前より充実した毎日を送ってるんだよ。…だから、ね。ディックは私にとって、大切な人だよ。
ディックが嬉しそうにしてれば私も嬉しいし、悲しまれたら私も悲しい。
…そんなディックのいる“世界”を、“こんな世界”って、言われてちょっと寂しくて」
ディックを見上げると、また驚いた顔をしている。
今日は何回、その顔を見たかなあ
「ディックが、自分自身を否定したようで、悲しくなったの。
私ね、ディックにはーーーー」
世界のことを、たくさん知っているディックだから
いろんな悲しみや、辛い現実を見てきたんだと思う。
だから、そんなディックに
願わくば
「幸せになって欲しいよ」