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49番目のあなた【D.Gray-man】

第6章  願わくば




ディックとバルコニーから見える庭園の景色を、ゆっくり楽しむ。

あそこに綺麗な花が咲いているとか、人が居るのが見えるとか。
そんな他愛もない会話が、とても楽しい。

気づけば、バルコニーの人達もまちまちとなり、日も傾きかけていた。


「なんか、こんなやりとりすら久しぶりだよねえ。最近、ディックと会えなかったから。」

「会っててもすみれは語学や数学のことばっかりさー」

「…確かにそうだけど!私にとってはそれも日常会話なの!」

「そんな日常会話する令嬢なんて、すみれ以外いないからな?笑」

色気もねーさー、とケケケとディックがいつもの調子で笑う。

「し、失礼な!色気の1つや2つなんて、朝飯前よ?!」


「……まあ、そんなもん出してくれなくていいさ」

「…どうせ出せないとでも思ってるんでしょ?」

ジロリと睨むと「違うさ〜」なんてフザケた返事をしてくる。もう!バカにして!

「お!あれ見てみ」
話題を変えるかのように、ディックが庭園の真ん中辺りを指差す。
そこに視線を落とすと、


「わ!赤ちゃんだ!可愛い〜!」

母親らしき貴婦人が、赤子を抱いて歩いている。
散歩かな?それともあやしているのだろうか。

「こんな舞踏会で見かけると思わなかったさ」

「ほんとね!お披露目みたいなものがあったのかな?あんな小さい赤ちゃん、久しぶりに見た!可愛い〜!」

やっぱり、赤ちゃんは存在そのものが可愛い。
こんな遠巻きからでも癒やされる、天使だ!

「可愛いねぇ…」
ディックはバルコニーの手摺に肘をついて母子を見下ろす。




「可愛いというより、儚いというか…





こんな世界に産まれて、可哀想さね」


突然、何かのスイッチが入ったかのように、ディックの雰囲気が変わった。
テンションが高かった私を他所に、ディックは冷たい眼差しで母子を見ているようだった。
冷たいというか、気の毒そうなといった方が正しいかもしれない。


たまに、ほんとうにたまに。普段見ないディックがこのように顔を出す。

達観してるような、近寄らせないような


本当の気持ちを押し殺してるような



そんなディックが現れる。

それがとても辛そうで、ほっとけなくて。


何故なのか、私は知りたかった。

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