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49番目のあなた【D.Gray-man】

第6章  願わくば





「それ、つけてくれてるんさね。」

「それ?」
私が首を傾げると、ディックは私の髪留めに触れる。


「俺があげたやつさ。」

「毎日つけるって、言ったでしょ?」

気づいてもらえた嬉しさから、笑みが溢れる。
すると、ディックは驚いたような顔をした。


「こんな舞踏会に、つけてこなくてもいいのに」

「そう?このヘアアクセサリー、今日みたいな日はさり気なく付けても可愛いでしょ!もちろん、普段は主役として付けるけど」

大きすぎず、小さすぎず、デザインも繊細で気に入っている。
でも、本当の理由はそうではない。



「…最近、ディックに会えなかったから。ちょっと寂しかったし?会えるかなあなんて、思ってつけてみたり…


そしたら、本当に会えたよ」


最後の方は恥ずかしくなってしまい、言葉が小さくなる。
ディックはパッと私の髪から手を離し、バルコニーの手摺に顔を埋め、はーーー、と深い溜息をついている。
ディックがどんな表情をしているか、わからない。

「ディック?」

私、変なこと言ってないよね?
そっ、とディックの側に寄る。すると、


「そういうのはさ…反則さ」

ディックは顔を上げ、自分の赤髪をがしがしと掻く。
ああっ 綺麗に髪型セットされてたのにっ



「明後日さ」

「え?」

「明後日なら、仕事も一段落するから…また会いに行く。」

バルコニーの手摺に両肘をつけ、遠くの景色を見つめて言う。
相変わらず視線は私と交わらないので、どんな表情をしているかわからないが、ディックの耳がほんのり赤く染まっていた。


「…待ってるね!」
バルコニーからの景色を見るフリをして、ディックの横に並ぶ。


「…おう。」

いつもは窓越しで一緒にいるせいか、ディックの横に並んだら距離がぐっと近づいた気がした。

正面で彼とあんなに向き合っていたのに、横に並んで意識してしまうことがあった。

思ってた以上に、背が高いなあとか。
目線を合わすには、ちょっと見上げないといけないなあとか。

隔たりがないだけで、すぐ手が届きそうとか。
隔たりがあったから、ディックとは別世界を生きている気がしていた。

でも、今


同じ空気を吸っていること

同じ景色を見ていること

同じ世界を生きていること




彼の横で改めて実感することができて、嬉しくて鼻の奥がツンとした。

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