第6章 願わくば
そっか、ばっちり見られてたのか。
そうだよね、止めてくれたんだから…
キスをされそうになったことより、ディックに見られたことに胸がズキンとした。
恋愛だって年相応に経験してる。
何故だろう、キスをされそうだった事実のショックより、今はディックに見られたくなかった気持ちが大きい。
だから、笑ってこの話は流してしまおう。
「…やっぱり、そうだよね!?ティキもなんで私なんかに手を出そうとしたのかなー!そんな雰囲気じゃなかったけどなー!あはは」
「…すみれは平気なのか?」
平気か、という問に疑問符が浮かぶ。
平気も何も、ディックが阻止してくれたんだから
「? 平気だよ!」
「平気じゃない。」
「え?」
「すみれが平気でも、俺は平気じゃない。」
ディックの困ったような、怒ったような
切ないような
そんな表情を見て、私の胸がきゅっとなる。
何故彼がそんな顔をするんだろう。
「俺は嫌だったし、不安になったさ。」
ディックは手を伸ばし、私の頭をポンポンと軽く叩くと、そのまま優しく手を添える。
そんな風にされると、蓋をした感情が溢れ出す。
「…私も、本当は嫌だよ。初対面の人に、突然そんなことされるの。」
ディックは黙って聞いてくれる。
「でも、ディックが助けてくれたから、そんなに嫌な思いはしなかったよ。…ありがとう。」
「…ん。」
ディックは短く返事をし、優しい笑みをむけてくれた。