第6章 願わくば
*
急に、ティキの顔が近づいた気がした。
そして、この状況は何だろうか。
ティキの顔が至近距離にあり、誰かの手で私の顔の下半分(主に口)を覆われている。
手の主を見ると、
ーーーーーーーーーディックだった。
「んんッ?!」
(え?!何この状況…!?)
「ちょーっと失礼するさ!」
ディックは私の口に当てていた手を首にまわし、がんじがらめにする。
もう片方の手は私の腰に巻き付いている。
ディックの動きは一瞬で、私は後ろからぎゅっと抱きしめられている状態だ。
(わ、わ、わ…!!?)
「あーあ、邪魔が入っちまった」
ティキは楽しそうに言い、立ち上がる。
ねえ、ティキは何しようとした…?!え?!
「…俺はそろそろ退散かな。」
んじゃ、またな♪と言い、ティキは自分の私物をまとめ去って行った。
(立つ鳥、跡を濁し過ぎだ……)
ティキが去る姿を、ディックと見送る
「ディ、ディック…?」
顔を上げると、そこには怒ったような、困ったような、気まずそうに頬を赤らめるディックの顔があった。
私に見られないよう、ディックは顔に慌てて手をあてた。
なんていうか、グッとくるものがある。
か、かわいい…
「…ちょっと、俺に時間くれねえ?」
建物の中に戻り、ディックとラウンジのバルコニーにいる。
バルコニーは小さいものがいくつもあり、各々話に花を咲かせている人達がいた。
このバルコニーも、私達だけだ。
そして美しい庭園がよく見える。
「ん、飲み物取ってきた」
「あ、ありがとう!」
グラスを受け取り、喉を潤す。
どうやらディックは、仕事で舞踏会に来ていたらしい。
いつもより正装で、実年齢より大人びて見える彼はとてもキレイに着こなしていた。
眼の保養だなあ
「来てたなら、すぐ教えてくれればよかったのに!いつ私がいることに気づいたの?」
「ん?さっき声を掛けたときさ。(最初から知ってたとは言えねえ…)ていうか、」
ディックはグラスを置くと、ビシッと私に指を差し、つめ寄る。
び、びっくりした
「危機感なさ過ぎ!!!流石にさっきのは、キ……手を、出されてただろ?!」
あ、キスって言おうとした、多分。