第17章 想い思われ反発して
ネガティブ・ケイパビリティとは《事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力》を意味するらしい。
「えーっと、この辺をチェックさね…」
ラビは薄暗く寒々しい廊下を歩きながらポケットを探り、少し折り曲がってしまった付箋で以下の点に印をつけていく。特に最後の箇所は重点的であることを強調した。
ラビがチェックを入れた箇所は以下の通りだ。
・解決できない問題に向かう力、耐える力。
・人の病の最良の薬は人である。
・自分が病気になりそうだったら、病気にならないと3度続けて言うと良い。
・星の美しさ、朝日や夕日の荘厳さ、木々の芽吹きの季節の健やかさ、花々の名前や木々を飛び交う鳥の鳴き声を感じる感受性を大切に。
・人は他人を悪く言いがち。
少なくとも自分だけは自分を褒めてやらなければどうするのか。
……この本の要点は大凡こんな感じだ。
今のすみれに必要な内容だとラビは考え、書庫室から拝借してきたのだ。
これですみれ が生きやすくなるとは思えないが、少しでも足枷が軽くなれば…なんて、もはや祈りに近い自己満だ。
(てか、何ですみれ のために、こんなことしてるんだろう…?)
いや、これは調べ物をしていて。
たまたま手に取って読んでみたら案外面白かったっつーだけで。決してすみれのためだけに起こした行動ではなく……
…って、オレは誰に言い訳してるんさ?
「はぁー、やっぱり…
―――――、好き 」
誰にも聞き取れないくらい小さな声で想いを吐き出す。声量に反比例して、より強く実感させられた想い。
もう認めざるを得ない
すみれが好きだ
何度も恋焦がれるなんて、本当に馬鹿げてる。
タイプでも何でもないのに。
ストライクなんて思う事も―――――
…いや。あった、あったさ。
一緒に出掛けた時のすみれなんて、めっちゃタイプな格好だった。
それ以外にも一緒に飯食ってる時とか。
美味しい美味しいと言いながらジェリーの飯を沢山食べてる姿はハムスターみたいで可愛い。お上品に食べていた貴族令嬢の時より、今のすみれの方がずっと好きだ。