第17章 想い思われ反発して
『その笑い方、覚えておいてね』
あの時のすみれは、まるで―――――
*
ふと、目が醒める。
一番最初に視界にぼんやり映ったのは、木の骨組みが剥き出しになっている古い建物の天井だった。
(此処は…)
黒の教団の書庫室だ。
調べ物の途中でラビは寝落ちしてしまった。散らかした本に埋まっていたラビは体を起き上がらせ、寝ぼけ眼で頭をガシガシと掻く。
(あん時…
すみれとリナリーと3人で外出した時の夢かぁー………っつーか、)
寒…ッ!
ぶるるっと体を震わす。眠っていた脳も一瞬で目が醒めた。
『ーーーーラビの笑い方、覚えておいてね』
嗚呼、夢だったらどんなに良かっただろう。
あの時のすみれの顔を思い浮かべる。
とても楽しそうに笑っていた。
しかし、今にも泣き出しそうで、胸を締め付けられる笑顔だった。
(あの時のオレは、どんな顔をしていたんだろう…)
素のオレだったのか、それともブックマンとしてのオレだったのか。
いや、そもそも黒の教団に身を置いてる“ラビ”は傍観者のブックマンであって。それ以外のオレとは存在するのか…
『覚えておいてね』
脳内で何度もリピートされる、すみれの声
「あ"ーも"ーッ!」
あの時のすみれの笑顔が、頭から離れない
「へっ…、
ヘブシっ!!」
盛大なくしゃみをかまし、ズビビと鼻をすする。
なんとも間抜けな絵面なせいか、いまいちシリアスになりきれない。
(……駄目だ、寒すぎる。一旦ここから離れるさ)
この間、やっと秋が来たと思ったら一瞬で冬に様変わりしていた。
ラビはトレードマークでもある白いマフラーを首に巻き直し、1冊だけ本を手にし書庫室を立ち去った。
手にした本は、ネガティブ・ケイパビリティ―――答えの出ない事態に耐える力、という題名の本だ。