第5章 想う
聞き慣れた声の主は、ディックだった。
「待たせて悪かったな」
私と男性二人の間にスッと入り、笑顔を向けてくれる。
そして私の肩に腕を回し、その手でポンポンと頭を撫でる。
まるで恋人のような扱いで、照れてしまいそうだ。
いつも子息の服装であるディックも、今日はとてもカジュアルだ。ジャケットにスキニーパンツと、編上げブーツ。そしてバンダナをしている。
…すごく似合ってる
「ほいっ」
「ッわ?!」
ディックに見惚れていると、何かが視界を遮る。
こ、これはバンダナ??
どうやら被せられたようだ。
「俺らは用事があるんで、失礼するさ」
ディックに肩に手を置かれ、歩き出す。
すみれに見えぬよう、ディックは男性二人を睨み、凄みを効かせる。
「ちょ!前見えない!」
すみれのバンダナを取ってやる。
「悪ィ悪ィ!行こうぜ!」
すみれの手を取り、歩き出す。
「怖…」
離れた男性二人から、呟かれた言葉は消えた。