第16章 覚えておいて
楽しい時間はあっという間にで過ぎ去ってしまうものだ。
演奏が終わり、新たな演奏が始まる。
「あれ、この曲は…」
舞踏会や社交界等では定番な曲だが、ダンスの難易度が極めて高い曲だった。
誰でも参加できるお祭りに、こんな曲が流れるなんて意外だなあと思っていると、今まで踊っていた人々が広場からはけていく。
先程まで踊っていた人数より少ない人数で本格的なダンスが始まる。
(あの頃はダンスが嫌いで仕方なかったのに…)
「懐かしいなあ」
あの日々に戻りたいとは思わないけど、こんな風に思う日がくるなんて。
しかし、同時に叔父や叔母達の事も思い出してしまった。
『あなたの方がAKUMAよ…』
彼らに罵られたフレーズが頭に蘇る。
彼らがブローカーを生業とし、その元で一緒に暮らしてきた自分も同様だ。人の屍の上で生きてきた事に変わりはない。心の中に暗雲が一瞬に立ち込める。
「すみれ?」
「あ、ごめんねっ!何でもないよ!私達も端に寄ろうか」
(ダメダメ、私…)
先程反省したばかりではないか
人に心配かけないって
表情で悟られないよう、俯向きながらリナリーの手を引く。
(大丈夫、大丈夫。笑顔…)
うん。笑顔、作れる。
「ラビ、おまたせ」
ラビの元へ戻る。顔を上げたその同時に、リナリーの手を離した。
「じゃ、次はオレと」
「え?……わっ、!?」
その一瞬。ラビに手を引かれ、一緒に走り出していた。
広場の中心に導かれ、再び同じ場所へ舞い戻る。
「えっ、ちょ、ラビ?!」
「リナリーとばっかじゃ、ズリーさ!」
気づけば互いに手を取り腰に手を回し、ダンスを始める体制となっていた。
「で、でもっ!私、この曲は…!」
今曲は前曲と異なり、とても高度なステップが求められる。
リナリーの時の様にエスコートできる余裕どころか、自分自身が踊れる自信がない。
「いや、ダイジョーブさ」
「わわっ…!?」
曲の序盤から細かいステップで足がもつれ転びそうになる。しかし、ラビの力強く優しいエスコートのおかげで転倒に免れるどころか、ステップすら導かれる。
「ラビ、こんな曲踊れるの?!」
「もちろん!オレ、ダンスと祭りが好きなんで♪」