第16章 覚えておいて
数秒して顔をあげると、リナリーの顔がカアッと赤く染まる。
「わ、私、ダンスなんて…!」
踊ったことないよ、と。
語尾につれ段々と声量が小さくなり、自信なさげで恥ずかしがるリナリー。
普段の彼女からはあまり見かけない様子に目を丸くしてしまった。
(そんな顔も、可愛いなあ…
―――でも、そんな顔じゃなくて)
「笑ってよ、リナリー」
「えっ?」
「ラビ!コレありがと」
「お、おお?」
借りていた団服をラビに返し、リナリーの手を取り大広場の中心へ向かって走り出す。
「わっ!すみれ?!」
「どんなダンスだっていいんだよ!好きに踊ろう!」
やっぱり、リナリーには笑顔が1番可愛いから。
「リナリー、大丈夫!私がエスコートするから」
「ほ、本当っ?」
「それに、周り見てみて」
周りを見渡せば皆形式張ったダンスではなく、曲に合わせて各々好きなように手を取り合って踊っている。
「ほら!私にステップを合わせて?」
「こ、こうかしら?」
「すごい!上手だよ」
ダンスは得意な方ではなかったが、上手にエスコート出来ている事に内心ホッとする。
(ステップが簡単に踏める…ラビのおかげだ)
ありきたりの表現になってしまうが、足に羽が生えたように軽い。靴ってこんなに軽くて、なんて動きやすいんだろう。
舞踏会や社交会で履く靴達はどれも綺羅びやかで高飛車で、見た目に反して鎖で繋がれた重しのようだった。
だから、鎖を引きずってステップを踏むダンスは辛いものでしかなかった。
「すみれ、ダンスって楽しいのね!」
「…そうだね、リナリー」
(そっか ダンスって楽しいものだったんだ)
綺麗なドレスを身に纏い、荘厳な演奏の中で沢山踊ってきた。今はドレスとはかけ離れたファストファッションで、簡素な演奏で踊っている。だけど、
(私、今 すごく楽しい…!)
初めてダンスが楽しいと感じる事ができた。
そしてリナリーの笑顔が見れて「あぁ、ダンスができて良かったなあ」と思えた瞬間だった。
「リナリーのおかげで、私もすごく楽しいっ!」