第16章 覚えておいて
「履いた感じはどお?立てるか?」
「うん、大丈夫だよ」
ラビは当然のように私の手を取りスクッと立たせてくれる。
「良かったさ!そんじゃ行こーぜ♪」
そして取った手を離さず、当然のように繋いだままの手を引いて歩き出す。
ラビのエスコートにどうしようもなくトキメイてしまい、某お伽噺のお姫様になったような錯覚に陥りそうになる。
しかし、残念ながら私はお姫様の役得ではない。
「…ごめんね、気を使わせちゃって」
「いーや、オレが欲しかっただけさ♪むしろ付き合ってくれてサンキューな!」
「お、お金!払うよ!」
「いや、いーって」
「いや、もうっ!悪いもん、色々と…本当にごめんねっ」
「そこはゴメンじゃなくて、“ありがとう”だろ?」
「え、でも、」
「ハイ!“ありがとう”、復唱!」
「あ…、ありが、とう?」
「どーいたしまシテ!」
よく言えました、と私の頭を再びポンポンと撫でる。あぁ、もう、本当…
「く、くやしぃ…っ」
「は?悔しいって、何がさ?」
「と、年上としての立場が、皆無すぎて…ッ」
「なんだソレ。笑」
違う。本当は違う。
ラビの、その手が優しいから。あの頃と全然、むしろもっと優しくなってて。
ちっとも成長してないバカな私は相変わらず、簡単にラビのことを“あぁ、好きだなあ”って思ってしまう。
でも、こんな風に扱われて、恋に落ちない女性なんているだろうか。
「せっかくの祭り事だし、楽しみたいじゃん?」
ラビは私の手を引きながら歩いているため、私に背を向けている。
良かった
私、多分、今。変な顔してる。
「前にさ、一緒にハロウィンしたじゃんか」
「、うん」
「オレ、スッゲー楽しくて。それからハロウィンとか、祭事とか好きなんさ」
「!、そうなんだ…」
「…すみれの、おかげ」
そう言って少し振り向いたラビの顔は、僅かにはにかんでいた。照れたような、でも楽しそうな年相応な男の子の顔をしていた。
そんな表情に、すみれの胸は心地よいむず痒さに痺れた。
「だから今日は楽しもーぜ!」
「うん……ありがと、ラビ」
お揃いの靴を履いた足達が、それぞれ歩幅を合わせて隣同士で歩みだした。