第16章 覚えておいて
「じゃーん!!
お揃いにしよーぜ!」
「え?」
ラビの片手には先程の靴と、もう片方の手には同じデザインで少し小さいサイズの靴が握られていた。
「だから、お揃いさ!」
「えぇっと、……何を?」
「靴を!」
「誰と?」
「すみれと!」
「え…えぇ?!」
ラビは袋から靴を取り出し、「どーせだから、今すぐ履こうぜ!」と、足を通す準備を着々と整えていく。
そして「お!オレのは良い感じ♪」と爪先をトントンと鳴らす。
「ほいさ!すみれもちょっと履いてみ?」
「え、ちょっ…」
驚いている私なんて本当にお構いなしに、ラビは私の足元に屈む。そして私が精一杯お洒落したハイヒールのパンプスと靴下をそっと脱が……え、ぬ、脱がす?
「あーやっぱりな」
「え?!」
「足、痛かったろ?」
「!、そ、それは…っ」
「ゴメンな。こんなんなるまで気づかなくて」
ラビは労るように私の素足を手に取る。いつも元気いっぱいに上がっている眉毛が下がった顔で、私を見上げる。
「っ」
この状況がなんだか恥ずかしくて、申し訳なくて。
いつも私がラビを見上げているのに、今はラビが私を見上げている。私の足なんかを、繊細なモノを扱うように優しい手つきで触れてくれる。
「そ、そんな!私がこんな靴、履いてきちゃったから…!」
「折角お洒落したんだから、そんなコト言うの無しさ!…コレ、応急処置な。帰ったら医務室行けよ?」
ラビは自身の太腿に私の足を乗せ、痛々しい箇所に絆創膏を貼っていく。今更になってハッとする。
「き、汚いから…!足なんて触っちゃっ」
「全然そんなことねぇーさ」
「で、でもっ」
ラビの顔と、私の足の距離がっ、ち、近い…っ
「任務やAKUMA破壊でどんだけ汚れると思ってんさ!」とラビは私の心配を笑い飛ばす。
絆創膏だらけになった痛々しい私の足を、ラビは優しく持ち上げる。そして購入したばかりの靴をそっと履かせてくれた。その所作はまるで某お伽話に出てくる王子様みたいだ。
履かせてくれたのは硝子の靴ではないけれど。硝子の靴より、ずっとずっと素敵な靴だと思った。
「おーピッタリさ!流石、オレの目見当♪」
「……うん、本当」
購入したばかりの靴は驚くくらい、私のサイズにピッタリだった。