第16章 覚えておいて
(あ、ラビみたいだ)
この馴染みやすさというか、違和感のなさというか。
(そうだよねぇ。ブックマンはラビの師匠なんだから、似てても不思議ではないよねぇ)
「ふふっ」
新しい発見ができ、思わず小さく笑みが溢れる。
「何か、面白いことでも?」
「い、いえ!別に」
「そうか」
「…いえ、やっぱり、面白いことがありまして」
「何じゃ?」
「……ブックマンとラビが似てるなぁ、と」
「ほう?」
「この空気感というか、スッと馴染む感じが…雰囲気ですね?」
似てるって言われません? とブックマンの方を振り向くと、とても驚いた顔をしていた。
「ーーそんなこと言われるのは、初めてじゃの」
「そうですか」
「…」
「…」
何故だろう、急に沈黙が耐え難くなった。
私は変な事を口走ってしまっただろうか…?!
「…こんな風に話すのは、初めてであったな」
「!、私も、さっき同じこと思いました」
「以前も、ラビがすみれ嬢に世話になった」
“以前も”というのは、私がまだ貴族令嬢でラビがディックであった頃の事だろうか。
「そんな!こちらこそ」
「……本当に未熟者でな、ラビは」
ブックマンは修練場に目を向ける。
同じようにそちらに目を向けると、ラビと神田が「ユウ!俺疲れてるさ!手加減してっ?!」「本気出しやがれバカ兎!」と組手をしていた。
ブックマンの目はとても穏やかで、だけど厳しさも感じられて。
まるで親が子を想うような、そんな風に感じられた。
「ーー本当に、バカ者じゃ」
「ブックマン…」
「ラビを、よろしく頼む」
ブックマンはそう言うとすみれに頭を垂れた。
「えっ?!いや、そんなっ、こ、こちらこそっ」
よろしくお願いします! と、すみれも慌てて頭を下げた。
(な、なんだかまるで、保護者に挨拶されている気分だなぁ)
どうしていいか困ってしまい、頭をなかなか上げれずにいると、
「すみれ!リーバー班長が呼んでたわよ」
「リ、リナリー!わかった、戻るね!」
「儂も鍛錬に戻るとするかのぅ」
先程の空気は何処へやら。
ブックマンはラビ達の鍛錬へあっという間に戻って行った。