第16章 覚えておいて
「なぁなぁ!オレの髪も結んで♪」
「え?結ぶ必要ある?」
「うっせぇよ兎」
「お前はまだ鍛錬終わってないじゃろーが!」
「えぇっ!?まだ終わんねぇーの?!」
そしてブックマンに再び引き摺られて去っていく。
「ラビと組手しても、やっぱ神田が勝つのかなぁ」
「さーな」
「あれっ、俺が勝つって言うと思ったのに」
「ちゃんと組手してねぇからな」
「そうなの?」
「アイツ、本気出さねぇんだよ」
神田の髪を結う手がピタッと一瞬止まってしまった。
「…そう、なんだ」
「…」
「はい、出来たよ」
「あぁ」
神田はお礼も言わずすみれのもとを去り、ブックマンにリベンジを挑んでいった。
(…そうか)
ラビは本気を出さないんだ
きっと 本音も出さないんだ
(だから、ダグはラビの事が苦手なんだ)
ダグは人の感情に敏感な子だから、気づいたんだ
神田も感覚的に敏感だから、きっと分かるんだ
「……教団の中では、私が一番知ってると思ったのに、な」
とんだ思い上がりだった。
以前、一緒に共有した時間があるだけで、彼の本質的なことは何も分かっていなかったようだ。
「バカだなぁ、私」
膝をたたみ、うずくまるように小さく座り直した。
「オイ、もう一度手合わせしろ」
「…ワシは少し休憩する」
「な"っ」
「少しは年寄を労ってほしいのぅ」
「マジで?!やっと終わったさ〜〜!」
「じゃあテメェが付き合え、バカ兎」
「はっ?!まだオレ休めねーの?!」
修練場の中心はわいわいと賑やかだ。
ラビや神田のやり取りは年相応で、とても楽しそうに見える。
ラビの本気も本音も、あの笑顔が嘘か真かも、
「…わかんない、なぁ」
「ちと失礼」
「わぁっ!??」
「驚かせてすまんのぅ、此処で休憩させとくれ」
「は、はい…」
ブックマンはそう言い、すみれの隣に腰を下ろした。
(ぶ、ブックマンだ…!)
ブックマンと話をするのは、実は初めてだったりする。
チラッとブックマンを見れば、タバコを蒸しリラックスしているようだ。
彼の特徴といえば、やはりその独特なアイメイク(ラビがよく“パンダ”と称している)。
一見、近寄り難そうだが馴染みやすいこの空気感はどこかで…