第16章 覚えておいて
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「ラビ、行っちゃった」
行っちゃったというか、ブックマンに引き摺られて鍛錬に戻って行った。
(可愛い、か…)
たったそれだけで、照れてしまう。
『言われてるぜ』って、本人の意志の言葉じゃなくても。
例えお世辞だとしても、舞い上がってしまう自分が居る。しかし、
『彼氏と行かねーの?』
『ふーん』
ツキンと胸が痛む。私に興味ないんだなって、対象外なんだなって。
……なんで私、落ち込んでるの?!
これじゃあラビの事、す、好き、みたいじゃ、
「ーーーーオイ!!」
「わぁっ?!」
低い声に呼ばれビクッと心臓ごと跳ねる。
声の主は神田で、何故か私の隣に居る。
「何度も呼んでんじゃねーか」
「え?そうだったの?」
ゴ、ゴメン と、私は悪くないのに、神田の威圧に負けてついつい謝ってしまった。
「持ってねぇか?」
「何を?」
「髪、縛るモン」
「持ってないなあ」
「チッ」
「舌打ちしないでよ」
「取られたんだよ、アイツに」
神田が悔しそうにブックマンへ視線を投げる。
なるほど、鍛錬中に髪を解かれてしまったのか。だから鍛錬にもかかわらず髪を下ろしていたのか。
「ブックマンて凄いんだねぇ」
「あ"?」
「いや、だって組手で神田に勝てる人って。そうそう居なかったでしょ?」
「負けてねェ」
「負け知らずの神田も、やられちゃったか…」
「だから負けてねェ!髪紐ねーんなら要はねぇ」
「あ、ちょっと待って!」
すみれは自身の髪を結っていたヘアゴムを差し出す。
「これで良ければ使って」
「あぁ。……つか、コレどーやって縛るんだ?」
「ワイヤーポニーって言うんだけど、縛ってあげる」
神田は今すぐにでもブックマンへ再挑戦したいようで、すんなりすみれに髪を結われる。
「相変わらず美髪だなー」
「サッサとしろ」
「はいはい」
ワイヤーポニーって髪をお団子ヘアにするんだけど、したら怒るよなあ。無難にポニーテールにしとこう、うん。そんな事を思いながら神田の髪をまとめていると、
「あーー!!ユウがすみれに髪縛ってもらってる!!ズリィ!」
再びラビが現れた。