第16章 覚えておいて
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(あ、またさ)
組手しながらでもチラホラと視界に入る。
だって修練場なんかで花畑オーラ出してんだぜ?
あのダグって奴、鼻の下伸ばし過ぎ。
「…この未熟者め」
「へ?…ふゴォ!!」
ジジイの蹴りがオレの頭に見事にクリーンヒットした。
「余所見なんかしよるからじゃ」
ジュクジュクの未熟者め! と、捨て台詞も頂いた。
オレとジジイの組手に決着がつき、待ってましたと言わんばかりにユウが割り込んできて。
オレの組手は半ば強制終了させられた。
「すみれー!」
ジジイの修行から逃れられた、今がチャンス!
オレがすみれの元へ駆け寄ると、タイミングよくダグって奴が鍛錬に戻って行った。
「…ラビ、お疲れさま」
「どうかしたさ?」
「う、ううん!なにも!」
明らかに寂しそうな、残念そうな顔をするすみれ。
「(あのチンチクリンのファインダーと、一緒に居たかったってか?)…ふーん」
モヤモヤと心を黒い影が覆う。
オレが目の前にいるのに、心ここにあらずのすみれに少しムッとなる。
ふわっ
「ちょっと、こうしてていい?」
「…おう」
すみれはオレの頭に手を添えてきた。
「硬めの髪だね」
「だろ?ゴワゴワとまではいかねぇーけど」
そんな髪質なのに、すみれはふわふわするモノを触るような優しい手つきでオレの髪を撫でる。
すみれのそんな手つきが気持ちよくて、思わず目を細めてしまう。
心のモヤモヤも一瞬で晴れてしまった。
……なんて単純なんだろう、オレ。
「今日のすみれはオシャレさね」
「たまにはね。変かな?」
「いや、全然」
いつものすみれはYシャツと膝丈スカートでシンプルな格好でいることが多い。
しかし、今日のすみれはノースリーブニットにマーメイドスカート。緩いアップヘアに、艶っぽいメイク。
いい、スゲーいい
体のラインがはっきりわかる服。
普段は見えない項が見える緩いアップヘアはオフ日っぽい。
そして艶っぽいメイク…ぽてっとした唇にどうしても視線がいってしまう。
(柔らかそ)
触れてみたい
何なら その唇に吸い付いてみたい