第16章 覚えておいて
ダグは思いやりのある、優しい青少年だ。
私と同じくらいの身長でどんぐり眼の彼は、実年齢よりも少し…いや、だいぶ幼く見える
(まだ16歳なんだよなぁ)
そう、ラビと同い年だ
そう言えば、ダグはラビを知っているのだろうか
「ねぇ、ラビって知ってる?」
「…最近入団した、エクソシストですよね」
「そうそう!赤髪で、」
「おーい!すみれ〜っ!」
噂をすればなんとやら
鍛錬が終わったようで、ラビが手を振りながらこちらへ向かってきた。
「ーーじゃあ、僕はこれで」
「あっ、ラビに挨拶する?いつか任務で一緒になるかもだし、それにね」
「ーーー結構です!!」
ピシャリ と、ダグはすみれの話を遮った。
「っ、そ…か」
怒られたような、突き放されたような
温厚なダグからひどく拒絶されたような錯覚に陥り、すみれの意志とは否応なしで目に水分がじわじわと溜まっていく。
そんなすみれを見て、ダグは慌てて謝罪した。
「ご、ごめんなさい!そうじゃなくてっ、その……彼が、苦手で」
「……え?」
「話したことはないんですけど、彼の雰囲気というかーーー笑ってない、笑顔とか」
(笑ってない、笑顔?)
ダグの言っていることが分からない
親しみやすい の間違えではなくて?
「口元は弧を書いているだけ。
彼の目もーーー、まるでガラス玉のようで
……あんまり関わりたくないんです」
「そう…なんだ」
「僕、もう行きますね。鍛錬の続きしないと」
「…う、ん」
「さっきは驚かせてごめんなさい」
「う、ううん!そんなこと…ッ」
「団服、そこに置いておいて下さいね」
「あっ、ダグ!」
ダグはラビがこちらに来る前にすみれのもとを立ち去っていく。
「…さっきの事は気にしないで」
眉を八の字にし、申し訳なさそうな笑顔でダグは言う。
じゃ、また と、いつもの優しい笑顔で手を振り今度こそ走って行ってしまった。
「すみれー♪」
「…ラビ、お疲れさま」
ダグとすれ違いざまにラビが駆け寄ってくる。
ラビの弾けんばかりの笑顔を見て、先程の会話を思い出してしまう。
(…そうかなぁ、ダグにはそんな風に見えるのかなぁ)
なんか、勿体ないな
すみれはダグの団服をギュッと握りしめた。