第16章 覚えておいて
(ーーーあ、この香りは)
ふわっと香る、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
金木犀の香りだ
「この香りがすると、いつも秋だなあって思うの」
金木犀の香りが風に乗って、夏の終りと秋の始まりを知らせにやって来た
「最近、朝晩は冷えますからね」
「そうだね!今朝も寒かったなぁ」
ファインダーのダグと修練場でお喋りに花を咲かす。
多忙な科学班の私がこんなトコでサボっていいのかって?
ふふん、今日は非番を頂いている。
外出はしないだろうけど、念の念の念の為くらいに外出許可も提出済みだ。
今日は久しぶりの休日で、よく寝てスッキリ!
ここのところ、徹夜続きだったからなあ。
職場に顔を出す必要なんてないけど、科学班の皆が気になってしまい足を運ぶ。
やっぱり皆は一生懸命に仕事をしてて、そんな姿を見たら結局手伝ってしまっている。
資料室へ向かう際、修練場を通り過ぎようとして今に至る。
「ダグとお喋りするの、すごく久しぶりだよね?」
「長期任務から帰ってきたばかりですから」
「だから会わなかったのか…ダグ、おかえり!」
「た、…ただいま、すみれさん」
私が笑うと、彼も照れたような笑顔で返してくれた。
ダグとすみれは職場は違うものの、時偶このように会話を楽しむ仲である。
「そんな薄着で寒くないですか?ココは冷えやすいから」
「うん、大丈夫だよ」
「よければ僕のコレ、使って下さい」
「えぇ?!それじゃあダグが寒いよ!」
「僕は鍛錬中で、もう暑いので」
「…じゃあ、ちょっと借りるね」
すみれはなんだか恥ずかしいなあと思いつつも彼の気遣いに甘える事にし、「ありがとう」と彼の団服を軽く肩に掛けさせてもらう。
ファインダーの団服は型がしっかりしてて真っ白で、まるで彼の心の在り方を表しているようだ。
「……………ファインダーの団服、もうちょっと軽量化した方がいいよね?でも防御率がな〜〜〜」
「すみれさん、今日は非番でしょう。仕事の話はおしまい!」
「ダ、ダグだって!任務明けなのに鍛錬してるじゃないっ」
「ははっ、僕はもう少し鍛えないといけないから」
ファインダーはイノセンスの情報を求めて世界各国を飛び回る。AKUMAと遭遇率が高く常に危険と隣り合わせなため、鍛錬は必須になる。