第4章 呼び名
「すみれ嬢はすごいさね!
こんな難しい数学と言語学を独学で。」
少年はアチチと言いながら紅茶を飲む。
「数学は答えに辿り着くのが面白くて。
言語学は私の知らない世界を知れて、楽しくて。こんな世界があって、こんな人達がいるんだなーって。夢が広がるでしょ?」
カチャ…とカップを置き、高い建物に囲まれた狭い空を見上げる。
「夢ねえ…。
どこの国に行っても言葉が違うだけで、人間の根本的なとこは変わらんさ。」
目を伏せがちに、少し冷めた物言いを少年はした。
「そうなの?君は凄いよねえ。色んな国のことを知ってて、語学力もあって。
将来は大使館とかお偉いさんになれそう。」
ほんの少し、少年のことに踏み込んでみた。
「語学力は家柄、さ。
将来も今と同じコト続けられたら、それでOKさー。」
もう家の事業に関わってるのかなあ。
まだ幼いのに関心しちゃう。
「すみれ嬢の将来こそ、やっぱ結婚?玉の輿?」
少年はニヒヒ、とイタズラっ子な笑みで聞いてくる。
「結婚ねぇ…実はあまり興味ないの。」
「令嬢だろ?そんなこと言ってると貰い手なくなるさー」
ちょっと失礼な!
ジト目で少年を睨む。
最近、結婚の話が続々と上がる。
今まで叔父叔母は何も言わなかったが、縁談を持ってくるようになった。
…年齢も年齢だし、仕方ない。
ただ、良い雰囲気になったと思ったら相手からアプローチがぱったりなくなったり。
気づいたら叔父の事業の関係者になっていたり。
なかなか事が進まない。
まあ、いいんだけどね。
結婚したくないから。
ハァとため息を吐くと、少年はじっと私を見て真剣な声のトーンで問うてきた、
「気になる人でもいるんさ?」
「ぶっ」
ちょっ、思わず紅茶を吹き出してしまったじゃない!!「汚え!」とか言わないでよね、誰のせいよ!?
……………気になる人、ねえ