第4章 呼び名
いないよ、と答えようとしたが 辞めた。
「いるよ。」と、ポツリ。
「えっ そうなん?」
隻眼を見開き、誰々?と。
聞いてきた割には意外そうに驚いた顔をしている。どうやら興味がお有りのようだ。
「それがねぇ!
こうやって紅茶を飲む仲なのに、名前すら知らないのー」
切ないわあと、白々しく。
頬杖を付いて横目で少年を見る。
ブフっと紅茶を吹き出す少年、ちょっとそんなに驚きすぎ。
「………ディック。」
少年がポツリと呟く。
「えっ?」
「ディック。
俺のことは“ディック”って呼んで?」
性は言ってくれなかったけど、それだけで十分だった。
「ディックね。私のこともすみれでいいよ。」
やっと聞けた、少年の名前。
私が一番知りたかったことだった。