第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「だって。お洒落しかったんだもん…」
「いつもドレス着てるだろ」
「今日は特別なの〜!」
すみれは鼻をズビズビ言わせている。これじゃあ風引いても可笑しくねーぞ。
ディックはスッとハンカチを出し、すみれの鼻に当てがう
「ほら、ちーん!」
「む、むぐ」
「大丈夫か?」
「…ん、ありがとう。
これじゃあどっちが大人か、本当にわからないね」
情ない、とすみれはしゅん…としているすみれがワン公だったら、絶対に耳が垂れている。あ、ちょっと見てみたい
「でもまさか。すみれがくれたハンカチで、すみれの鼻を拭くとは思わなかったさ。笑」
「えぇっ?!そうなの?!使ってくれて嬉し…じゃなくて!汚してゴメン!洗って返すから…っ!」
「いや、別にいーって」
洗って返さないと!と、すみれは恥ずかしがり、俺からハンカチを奪おうとする。恥ずかしがるポイント、ズレてね?
すみれには悪いが、このハンカチだけは渡せない
“やっぱ手作りなんて…”とか言って、既製品に替えられてしまいそうで怖い。いや、十分に有り得る
「ねえ!ディックってばー!」
「お菓子じゃねーけど、」
ディックはすみれの後ろに回り、
「きゃ…っ?!」
すみれに、抱きついた。
そして、すみれの首に腕をまわす。ディックの鼻を、すみれの黒髪がくすぐる
(あ。いい香りさ)
これは、シャンプーの淡い香りと
甘いお菓子の香り
あと、
(……すみれの、匂い)
すみれの匂いにつられ、思わず顔をすみれの髪に埋め、そして唇をつつつ…とすみれのうなじに寄せる
「ひゃ…っ?!」
すみれの体がビクッと震え、可愛らしい声が漏れる
(…やべ、もっと聞きたい)
見たい、触れたい
すみれの首に回していた腕の片方を、今度はすみれの腰に手をやる
「んっ…!」
すみれの口から、本人の意図せず甘い声が漏れる。すみれ自身も、いつもと違う自分の声に驚き、更に体が震える。
すみれの顔を盗み見れば。
顔を真っ赤に染め上げ、目は涙で潤んでいる。声を押し殺そうと、手で口を覆っていた。
そして、拒否の様子が見られない