第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
そんなすみれの姿に、欲情する。ドクドクと鼓動が大きく、早く高鳴る。そして俺の感が、確信を持って叫んでいる
これは、イケる
俺は思わず、ゴクッと生唾を飲み込む。
俺の腕の中で、すみれも“ナニか”と悶えている。あと少しの刺激ですみれの“ナニか”が弾け、俺に身を委ねるだろう
それは、俺も同様なわけで
(すみれと、目でも合ってしまえば…)
お互い抱き締めあって、溶けるような熱いキスをして。すみれはきっと、身も心も俺に捧げるだろう
俺の、欲しいモノーーーー
すみれを振り向かせる為に、すみれの両肩に手を乗せグッと力を入れる
(すみれ……)
ーーーー“ディック!”
俺の名を呼び、大好きなすみれの笑顔が浮かぶ
(……ーーーーッ!)
一瞬で、目が覚めた
この後のことを、未来を想像してしまった
そう遠くない未来、悲しみに打ちひしがれるすみれの姿を
そして、そんなすみれを捨て去る、俺を
(俺は…!)
すみれを悲しませたい訳じゃない。そんな事は絶対にしたくないし、しちゃいけない
ブックマン後継者であろう者が、勝手に好きな女の色香に惑わされて、勝手に舞い上がって。俺…
(ホント、ダッセェ…!!)
すみれ、ごめんな
もう少しで余計な傷を残すとこだったさ
ディックは名残惜しくも、すみれの肩から手を離す
(だって、俺の本当に欲しいモノは…)
そして、離れ際に
ふわっ
「…わっ?!」
「これで、勘弁さ」
「え!これ、…ストール?」
「そ!そんな格好じゃ、寒いだろ?」
「え、悪いよ!てゆうか…え、あれ…?」
すみれの肩に、俺が身に着けていた黒いストールを巻いた。そして、俺は先程の事はなかったものとして、再び歩き出す。顔に、笑顔の仮面を貼り付けて
情けないが、これが俺にできる精一杯さ
「ほら、温かいもんでも食いに行こうぜ?」
「あ、うん……そうだね」
すみれは不思議そうにするも、追求してこなかった。俺はすみれの気遣いに甘えることにし、互いに手を取り合い歩き出すのであった
Trick or Treat?
その場の快楽も、未来も選べない
そんな俺を、きっと悪魔が笑ってるーーーーー