• テキストサイズ

49番目のあなた【D.Gray-man】

第10章  トリック・オア・トリート《番外編》



「すみれを産んでくれて、ありがとう。」

「!」

「…じゃなきゃ、すみれと会えなかったさ。」



ディックはスッと目を開き、すみれと視線を交える。ディックの隻眼の翡翠色の瞳の中に、すみれが映る。

ディックの瞳の中のすみれは、目を見開き、とても驚いた顔をしていた。



「…なんて、な!」

ニッと目を瞑って笑うディックの瞳に、すみれの姿は映らない。


「……ディック、ありが…、とっ!」

「…泣くなって」

「そりゃ、泣くよっ」

すみれは泣き顔がディックの瞳に映らないように、両手で顔を覆う。




今日は泣かないって。
泣かなくて済むって、思ってたのに。

嬉し涙を流すなんて、夢にも思わなかった。


(お父さん、お母さん…っ)



やっぱり、私は幸せだよ

不自由なく過ごせていて
優しい叔父様と叔母様もいて

貴族界は苦手だけど、ティキのような
本音を言える友人もできてきて

何よりも、

ディックがいる


ディックがいてくれる



だから、もう






「…もう、大丈夫だよっ!」

悲しみの涙は、流さないよ


すみれはぱっと顔を上げ、顔を拭おうとすると、腕を掴まれる。

「!」

「んな顔で言われても、説得力皆無さ」

ディックはそう言うと、すみれの瞳からそっ…と涙を指で拭う。

「ごしごし擦ったら、化粧もとれてホントのオバケになっちまうさ。…次いでに、鼻水も出てるさ」

「はっ、恥ず…っ!!」

「ほら。ちーん?」

「んぐっ」

ディックはいつの間に準備したのか、すみれの鼻にティッシュを押しつけ鼻を拭う。




「(わ…私は一体いくつよ?!!)
んはっ!…ディック、本当にもう。大丈夫だから!」

「ホントか?」

「ホントだよっ」

「じゃあ、俺とうまいもん食いに行ける?」

「もっちろん!」

「んじゃ、そろそろ行くさ」

「あ、ちょっと待って!…はい、これ」

すみれは両親に供えたお菓子の詰め合わせを、ディックに渡す。

/ 355ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp