第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「へ?俺がもらってもいいんか?」
「だって、それはディックのために作ったものだし。それに、ほら。あそこ見て?」
すみれが空を指差し、ディックも上を見るとカラス達が飛んでいた
「きっとカラスに荒らされちゃう。お墓も汚れるし、勿体ないから食べて?」
「…そんじゃ、遠慮なく頂くさ。」
「うん!…ディック、行こ?」
「もう、いいんさ?」
ディックはすみれを気遣うように、じっとすみれを見つめる。
…私、優しいディックが大好きだよ
「うん!もう大丈夫だよ!」
もう、ここに来るのは悲しくない
「それじゃ、行くさ」
ディックはすみれに手を差し伸べる。
「うん!」
すみれはぎゅっと、ディックの手を握る。
その手を離さないように
二人は、すみれの両親が眠る墓地を後にする。
「俺、何か温かいもん食いたいさ〜!」
「いいね!ハロウィンっぽい、カボチャスープとか?」
「焼き肉」
「全然ハロウィンっぽくな…わっ!」
突然、すみれとディックを包み込むかのように、風が落ち葉ごと舞い上がる。すみれは目にゴミが入らぬよう、思わず目を瞑り視界を遮った
ーーーーーー愛してるよ、すみれ
「えっ?!」
「?、どした?」
「今、何か聞こえなかった?」
「いんや、何も?」
ディックはキョトンとしている
「そっか…」
「風の音と、聞き間違えたんじゃねーの?」
行こうぜ、とディックに手を引かれる。
多分、風の音じゃなかった。
はっきり聞き取れなかったけど、声が聞こえた。優しい、懐かしい声だった気がする。ディックが言っていた言葉を思い出す。
“ハロウィンって、秋の収穫祭や先祖の霊を迎える祭だろ”
もしかしたら、聞こえた声は。
お父さんや、お母さんだったんじゃないか。
そうだったら、いいな…
すみれは両親が眠るそこへ振り返る。
「……またねっ!」
次からは、笑顔で来るよ
楽しい毎日を報告するために
「どした?」
「ううん、何でもない!」
すみれはディックの手を、愛おしく握った。
Treat or Treat?
私が欲しかったものは、お菓子じゃなくて
あなたの ぬくもりーーーーー。