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49番目のあなた【D.Gray-man】

第10章  トリック・オア・トリート《番外編》



「ちっとも、会いに来なくて……ごめんね」





思わず、溢れた言葉だった。
ここに来ると、泣いてばかりだったのに。こんなに温かい気持ちになれるなんて、思わなかった。
すみれは両親の墓碑の間に、そっ…とリースを供えた。

「そんじゃ、これも!」

ひょこっとディックがすみれの横に現れ、お菓子の詰め合わせをリースの前に置いた。

「!、それ」

「すみれがくれたヤツで悪ぃんだけど。…父ちゃん、すみれのお菓子好きだったんだろ?」

供えて欲しいさ、と言うとディックもすみれの横にしゃがみ込んむ。

「すみれの父ちゃん、母ちゃん。…ありがとさ」

ディックはそう言うと、手を合わせ目を瞑る。
すみれもディックに続き、手を合わせ両親へ思いを馳せる。

(お父さん、お母さん…)




私、元気にやってるよ

…毎日、楽しいよ


昔の思い出が、次々と思い出される。
父と母と手を繋ぎ、二人の真ん中には幼い自分がいて、幸せそうに居る。

両親の笑った顔が、鮮明に思い出される。
手を伸ばせば、届きそうな距離に二人はいる。


でも、その手は
決して届くことはなくて


(…いつも、泣いちゃうのにな。
何時間も、ここから動けなくなっちゃうのに…)


今日の自分は、目元と口元が緩んでいる。
父と母の思い出に浸るのが、こんなにも懐かしくて幸せだ。

(きっと、それは)

ディックのおかげだ。
ディックが私の日常に、鮮やかな色を添えてくれたから。


ディックが、側にいてくれたから。


(ディックと出会ってから、両親の思い出話をたくさんするようになったかも…)


叔父や叔母にも話さなかった両親の話を、ディックにはしている。
ディックはすみれの心の鍵だけではなく、凍てついた心まで解いていたのだ。


(…思い出に向き合えたから、今。こうやって両親と向き合えるようになったのかな)


ディック、ありがとう。


そんな事を想っていたら、


「すみれの父ちゃん、母ちゃん。
すみれにハロウィンの楽しさを教えてくれて、ありがとさ。」


横からディックの声がした。まだ、目を瞑り手を合わせてくれている姿に、嬉しくなる。
まだ、話すことがあるのかな?





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