第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「久しぶりだな、ここ…」
足を運ぶのは、いつぶりだろうか。
「そーなん?尚更、今日は来て良かったさ」
ディックはすみれの手を引き、場所教えて?とさり気なく誘導してくれる。
正直、なるべく来ないようにしていた。
何故なら、楽しい思い出も、幸せな思い出も。寂しさと悲しさに、勝ってしまっていたから。
ずっとずっと避けていた場所ーーーー
ディックとすみれは、教会へ来ていた。
正しくは、すみれの両親が眠る教会へ。
両親が眠っている場所へ、ディックと歩き出す。
「両親、きっと今日は帰ってきてるさ」
「なんで、ここに来たかったの?」
「すみれの両親に、お礼を言いたかったんさ。」
「お礼??」
すみれは意味がわからず、首を傾げる。だって、ディックは私の両親と関わりがあるはずがない。
「ハロウィンの楽しさを、すみれに教えたのは両親だろ?
すみれがハロウィンの楽しさを知らなかったら、俺も知らないままだったさ」
だから、お礼しないとな!と、ディックは優しい笑顔をすみれに向ける。
「……そんな風に、思ってくれるの?」
「それにハロウィンって、秋の収穫祭や先祖の霊を迎える祭だろ?仮装するのは、悪霊を追い払うためで。」
「言われてみれば、そうだったような…」
周囲をよく見てみると、仮装をした子どもを連れた家族がちらほらといる。
そして墓碑には、所々ハロウィン仕様の花々が供えられているではないか。
いつも綺麗に整えられた芝生の上にある墓碑達は厳格な雰囲気だが、そんな場所も今日はお祭りのように華やかだった。
「今のハロウィンは仮装だけ残って、仮装パーティーになっちまったけどな」
ディックは再びガオー!なんて言って見せる。笑わせようとしてくれるディックの優しさに、心がじん…と熱くなる。
「あ、ディック。ここだよ」
すみれ達は両親が眠るそこへ、歩み寄る。
すみれは墓碑の前にしゃがみ込み、父と母の名が刻まれた刻印を指でなぞる。
(全然来なかったけど、綺麗に手入れされてる…よかった)
ここに両親が眠っていると思うと、みるみる思い出が甦る。
父と母の笑った顔が、鮮明に思い出された。