第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「あ。悪いっ、すみれ!大丈夫かっ?!」
ディックが急ブレーキをかけるものだから、すみれはディックにぶつかる
二人の背丈は同じくらいのため、ディックの後頭部にすみれの鼻がぶつかり、ごちんっと鈍い音が響いた
わ、私の低い鼻が、更に縮む…っ
「だ、だいじょばない…っ」
色々とだいじょはないよ、ディック!!
「…色々とダイジョブそーさね!」
ディックはニコッと大袈裟な笑顔で言い放つ
「あんなに、走ったら…息がっ、続かないよっ!」
まだ息が荒いすみれに対し、ディックは息一つも上がっていなかった
「悪かったさ!でもすみれも悪いからな」
「何が?」
「イケメンにデート誘われてたろ?俺と一緒にハロウィン楽しもうって言ったくせに」
ディックは振り返り、すみれをジト目で見る
「もちろん、断ろうとしてたよ!でも、ディックってば突然いなくなって…わっ?!」
私を置いてくんだから!と、文句を言おうとしたが、その続きは遮られてしまった
ディックに突然押し付けられた物は、輪っかで、もさもさして色鮮やかで…って、コレ…
「……リース?」
紅葉や木の実、生花が沢山あしらわれた、大きなリースだった
今の季節だからこそ手に入る植物を使用し、オレンジ色を基調として作られていた
ハロウィン使用になっており、小さな南瓜、手作りのオバケや黒猫のモチーフ等も装飾されていた
「そうさ!だから店員が作るのに、時間かかっちまったんさ」
「…すっごい!可愛いっ!こんな素敵なリース、初めて見た!!」
「花束じゃなくて、ソレにしてよかったさ」
「ありがとう、ディック!すっごく嬉しいっ!!」
凄い凄い!と嬉しがるすみれを見つめるディックは、気づかぬうちに顔が緩む
「…っま、正しくは“すみれへ”じゃねーんだけどな。そのリース」
ディックは頭の後ろで腕を組み、悪戯っ子な笑みを浮かべる
「えっ?!…あっ、そうなんだ!?そうだよね、あは…あはは!」
すみれは当然自分への贈り物だと思ってしまい、顔を赤くし俯いた
ず、図々しいな、私
恥ずかしい…っ
「俺さ、行きたいトコあるんさ」
「ど、どこ?」
「それは、〇〇〇ーーー」
「えっ?」
ディックの言葉に、すみれは耳を疑った