第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
すみれとティキが呆気にとられた一瞬の間に、ディックは二人の手を解いた。
「悪いさ、オニーサン
すみれは今日、俺の相棒なんさ」
ディックはティキに宣言するかのようにそう言い残し、ペロッと下を出す。
「んな…っ!」
ティキは、ディックの予想外の言動に、思わず面食らった。
グイッ
「わ…っ?!」
「行くさ、すみれ!」
そしてディックはすみれの手を取り、その場から駆け出した。
「あーあ〜。すみれと遊びたかったのにぃー!」
ザンネーンと言いながら、ちっとも残念そうな素振りの無いロード。ロリポップを舐めながらティキの様子を伺っていた。
「俺の負けだわ。油断した」
「ティッキーが、油断んんー?」
「そ。…あの少年、ただの子どもじゃなかったわ」
ティキはディックによって解かれた、すみれと繋がっていた手を眺める。
「今回ばかりは、見逃してやるさ」
「ふふふ〜。面白くなりそー!」
二人の口は、大きな弧を描く。
ロードはティキの腕に抱きつき、二人は人混みの中へ消えていった。
そんな会話をしていた事など、すみれ達はつゆ知らず。
*
「ちょ…ディックっ!」
すみれはディックに引かれるがまま、走り続けている。人混みの中を走っているにもかかわらず、不思議な事に誰ともぶつからない。
すみれはディックが発した、先程の言葉を思い出す。
ーーー“すみれは今日、俺の相棒なんさ”
その言葉を残し、自分をかっ攫うディックの姿に、トキメキと落胆する気持ちが相互していた。
ディックはいつも、ピンチというか、困った時に助けてくれる。しかも、相手をやんわりと制して。
(お世辞抜きに、カッコ良かったな…)
そして、この落胆する気持ちの原因は、“相棒”という言葉。
やっぱり、こんな年上の女は彼女候補にすらならないのかな。でも、助けてくれた時ぐらい、
(“彼女”って、言ってくれても良かったのにな…)
そんな2つの気持ちが、すみれの心の中を行ったり来たりしていた。
(そういえば、ティキに挨拶もなしに走りだしてしまった)
というか、それよりも。もう…ッ
「ディック…限界!!と、止まっ…」
止まってー!!!!