第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「すみれの母ちゃんは、ホントに凄いさねえ!」
まだお菓子に釘付けなディックに、すみれは顔を寄せ1つのお菓子を指差す
「このカボチャのマフィンはね、ちょっと自信あるよ!」
「そうなんか!どれも美味しそうだけどな」
「このマフィン、お父さんが大好きで。ハロウィン以外のときも作ってたの。
久しぶりに作ったけど、美味しくできたよ!」
両親を思い出しながら話すすみれは、いつもよりはしゃいだ子どものようで。
とても嬉しそうに、楽しそうに話しているのに眉毛は僅かに下がっていて、ディックの目にはほんの少したけ、
寂しそうに見えた
「…すみれの両親に、お礼しなきゃな」
ディックはボソッと一人呟く
「ん?何か言った?」
すみれは聞き取れず、ディックに問う
「すみれ、ここでちょっと待っててな?」
「え?ちょ、ディック?!」
「すぐ戻るー!」
そう言うと、ディックはすみれをその場に残し、1人走り去ってしまった
「ちょっと、ディック?!」
すみれは慌てて追いかけようとするも、ディックは一瞬で人混みに紛れてしまい、あっという間に姿が見えなくなってしまった
「え、えぇ〜…」
くいっ
「?!」
一人でうなだれていたら突然服を引っ張られ、驚いて引かれた方を見ると、
「オネーサン、お菓子持ってるのぉ〜?
ボクにもちょおだい?Trick or Treat★」
見知らぬ少女に、袖を惹かれていた
「え、ええと…?」
「お菓子くれなきゃ、イタズラしちゃうよぉ〜?」
ツンツンで短髪のとても可愛らしい少女は、とんがり帽子を被り、黒いマント、そして箒を持っている。
すみれと同様に、魔女の格好をしていた。
「(か、可愛い…!!)手作りのお菓子しかないんだけど、それでも良かったら。ハッピーハロウィン!」
「ありがとぉ〜☆」
すみれは余分に持っていた手作りのお菓子を少女に渡す。
「それ。手作りだから、おうちの人に食べていいか聞いてから食べてね?」
「わかったぁー☆」
「おい、ロード!!」
可愛い少女と会話を楽しんでいたら、保護者が迎えに来たようだ。
わ、私こんな格好だけど、不審がられないかな。大丈夫かな
「勝手にうろちょろすんなって…すみれ?」