第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「私が着てる衣装は、確か10歳?ぐらいに着た最後の服なんだ」
「よく着れたさね?!」
「そう思うでしょ?ちょっとだけリメイクしたら、ほら!着れたの!」
すみれはその場でくるっと、回ってみせる。黒のミニワンピースと蜘蛛の巣柄のカーディガンの裾が空気を含みふわっと膨らむ。
「…」
「ディック?」
普段落ち着きのあるすみれからは想像できない無邪気すぎる行動で、ディックは一瞬釘付けになる。
「(……可愛すぎかッ!!)
すげぇな。すみれは器用さね!」
「ふふーん♪
…ねえ、ディック。ありがとね」
「へ?なんで?」
「ディックがハロウィンに誘ってくれなかったら、この衣装達を引っ張り出すこともなかったもん。懐かしい思い出もいっぱい蘇ったし。…だから、ありがとね!」
すみれは少し頬を染め、はにかむように笑う。「もう、準備するのが楽しすぎちゃって!」と照れながら頬を掻く。
そんなすみれの姿に、ディックの胸がキュッと小さく締め付けられた。
「…今日は言ってもいいよな」
「?、何を?」
「トリック・オア・トリート〜!!
お菓子くれなきゃイタズラするさー!」
ディックは手を伸ばし、ガオーッなんて言っている。それでは猫ではなく、狼だ。
「ガオーは、狼でしょ…
はいっ、ハッピーハロウィン!」
ぽんっ
と、すみれがディックの両手に乗せた“それ”は、
「えっ?ホントに貰えるんか!」
「えっ?
トリック・オア・トリート!なんて言っておいて、貰えないと思ったの?」
「だって、こんなにさ!」
ディックの両手に乗っているのは、お菓子の詰め合わせだった。
コウモリ型のチョコレート、おばけのクッキー、カボチャのマフィンに、ハロウィン柄の紙に包まれた生キャラメル。
様々なお菓子達が可愛くラッピングされ、お洒落していた。
町中のお店や屋台で売られているお菓子達とも、引けを取らない出来栄えである。
「まさか、こんなに貰えるとは思わなかったさ!」
「これね、全部私が作ったの」
「えっ?!コレも手作りなん?!」
ディックは目をぱちくりさせ、「すげぇ!すげぇ!」と連呼し、はしゃいでいる。
「これもさ、お母さんと毎年作ったレシピなんだ。」