第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
ディックが、“可愛い”って。
火照る頬と緩む口元を隠すために、キュッと口を結び下を向く。
ああ、嬉しいなあ。
(頑張って、よかった…!)
「俺はあんなのも好きさ♪」
「ん、どれどれ?」
ディックが指差す方を、うきうき気分で顔を上げる。そこにあったのは、たわわで大きな…
胸。
「…」
「マジでいい眺めさ〜!!」
たわわで大きな胸元を惜しげも無く晒し、お見脚は網タイツで色気をばっちり醸し出す、バニーガールのお姉様方がいらっしゃった。
「……」
「やっぱ仮装は…って、ありゃ?すみれ?」
ええ、ええ。そうですよね。
言葉も出ませんわ。
私だって、ボンッキュッボンッの綺麗なお姉様は好きですよ。
すみれは自分の胸に視線を落とすも、小さな2つの山から自分の爪先までしっかり見下ろすことができてしまう。
あ、なんか虚しい。
「…」
「おーい、すみれ?」
ディックはすぐ隣にいるのに、私を呼ぶ声が遠くから聞こえる気がする。
さっきまでは、あんなに嬉しかったのに
あ、今度はなんだか腹が立ってきた。
(そうだ!ディックにあれをつけちゃお…!)
すみれはごそごそと、カボチャのトートバッグの中を探り出す。
「おーい、すみれさん?もしかして、ヤキモ…」
「えいっ!」
「おわっ?!」
すみれは突然、ディックの腰に抱きついた。
「なんっ!?すみれ?!」
「ちょっと動かないで!もう少し…っ」
「いやいや!外さここ!!大胆過ぎさ?!」
「…ねえ、何を言ってるの?よしっ、でーきた♪」
「へ?」
すみれが離れたと思ったら、ディックの後ろには…
「尻尾?」
「そう!これも、はいっ!」
カポッ
「どぅわっ?!なんさっ?!」
すみれに、頭に何か付けられた。
頭を触ると、そこには…
「…耳?」
「そうだよ!いい感じ!」
黒くしなやかな尻尾に、獣耳。
これはもしや…
「……黒猫、さ?」
「ご名答〜!ディック、似合ってるよー!!」
驚いているディックとは正反対に、すみれはとても楽しそうに、きゃっきゃとはしゃいでいる。