第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
ハロウィンを楽しむなんて、いつぶりだろうか。
両親が健在だった頃は、毎年この日を楽しみにしていた。
何日も前から、ハロウィンの装飾を沢山作って父と飾り付けして、家を彩った。旬の野菜や果物で、かぼちゃパイやクッキーを、母と料理した。料理できるようになったレシピが、毎年少しずつ増えていくのが嬉しかった。
何より嬉しかったのは、母が毎年私のために、手作りで仮装の衣装を作ってくれたことだった。
(お母さん、大変だったろうなあ)
一人で思い出し、ふふっと笑みが溢れる。
母の手で作られた衣装を着れば、当時の私は何にでもなれた。お姫様だって、魔女だって、苦手なオバケにさえだってなれた。ハロウィンの時だけは、オバケとも友達になれると思っていた。
それに、母が繕ってくれた衣装を着ると、家族が笑顔になる。
『お父さん、見て見て!!』
『おっ!お母さんに衣装作ってもらったか!今年もすごく可愛いぞ』
『よかったわねえ、すみれ』
『うん!お母さん、ありがとう!!』
最後に着た衣装は、なんだったっけなあーーー
「なあーに、1人でにやけてんさ?」
ひょこっ
ディックは、すみれとすみれが読んでいる数学書の間から顔を覗き込む。
うん、相変わらず距離感が近い…っ!
本当は顔が赤く染まるくらい恥ずかしいが、そろそろ慣れよう、私!
自分一人だけ照れるのは何だか悔しいので、数学の公式を思い浮かべ気持ちを落ち着かせる。
あ。
うんうん、いい感じ。
「…ん、昔のことをね。ちょっと思い出してたの」
「昔?」
「そう。小さい頃は、毎年ハロウィンを楽しんでたなあって。」
「へぇー、どんなことしてたん?」
ディックは自分の椅子に座り直し、窓枠に肘をつく。
「家中ハロウィンの飾り付けをお父さんとしたり、お母さんと料理したり。仮装もしてたよ!…楽しかったなあ」
すみれは目を細めてふふっと、再び笑みが浮かぶ。
「めっさ楽しそうさね!」
「うん!ディックはどんなことしてた?」
ディックは「うーんんん」と言いながら、上を見上げ唸る。