第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
夏を感じさせる暑い日差しもなくなり、気がつけば鬱陶しく感じていた夏の風物詩である、セミ達の声も消えていた。
日中は半袖で過ごせても、夜は肌寒い。日も短くなり、夜はリーンリーンと鈴虫の儚い音色が聞える。
庭園に咲いている、金木犀の花の香りが書庫室まで漂い、胸いっぱいに秋の愁いを感じるティータイム時ーーーー
「トリック・オア・トリートさ〜!!」
…何故だろう、台詞は秋の一大行事なのに。
忘れかけていた夏を思い出させるかのように、太陽のように眩しい笑顔で、赤髪の少年が書庫室の窓から現れた。
すみれはティータイム用に準備した、クッキーが乗ったお皿をスッ…とディックに差し出す。
「………………ハッピー、ハロウィン?」
「………何で疑問系さ?」
そんな、とある日の出来事。
【トリック・オア・トリート《番外編》】
「いや、だって。“トリック・オア・トリート”って言うから」
はい、お菓子!と、すみれは極当たり前のように皿に乗ったクッキーをそのままディックに差し出す。
「いやいや、待つさ?だからって皿に乗ったクッキーで“ハッピーハロウィン?”しかも疑問系はねえさ!」
ディックは至極引いた顔で「ありえねぇさ!」とすみれに言う。
「いやいやいや、待って?まだ今日はハロウィン当日じゃないし、仮装もしてない人に突然“トリック・オア・トリート”って言われても、えぇ!?だからね?」
そうなのだ、今日はまだ10月の半ばだ。
街や一般家庭はハロウィンの装飾で彩られ、ハロウィンムードでいっぱいだが、まだ“トリック・オア・トリート!”と、言うのは早いだろう。
ディックは納得したのか、一人でぐぬぬ…っと唸っている。
「だから、お誘いに来たんさ」
ディックはすとん、と書庫室の窓側の外に置いてある自分専用の椅子に腰掛ける。
「お誘い?」
「そ!お誘い、さ。
10月30日は、俺とハロウィンしよ?」
「デートさ、デート〜♪」と鼻歌交じりに、嬉しそうに言うディック。
…私、まだ行くなんて言ってないのにな。
なんて思うものの、心の中では飛び跳ねて喜んでいる自分がいるのは秘密。
そんなこんなで、ディックとハロウィンを過ごすことになった。